大判例

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名古屋地方裁判所 昭和50年(ワ)2685号 判決

原告

柴原豊三

右訴訟代理人弁護士

在間正史

高橋淳

佐藤典子

伊藤道子

被告

名古屋市

右代表者名古屋市長

西尾武喜

右訴訟代理人弁護士

鈴木匡

大場民男

右訴訟復代理人弁護士

朝日純一

山本一道

鈴木順二

伊藤好之

鈴木雅雄

被告

愛知県

右代表者愛知県知事

鈴木礼二

右訴訟代理人弁護士

佐治良三

右訴訟復代理人弁護士

後藤武夫

右指定代理人

安保勝

外七名

被告

右代表者法務大臣

鈴木省吾

右訴訟代理人弁護士

大場民男

右訴訟復代理人弁護士

朝日純一

山本一道

鈴木順二

伊藤好之

鈴木雅雄

右指定代理人

石塚繁

外三名

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは原告に対し、各自金一二三万円及びこれに対する昭和五〇年一二月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

(被告名古屋市)

主文同旨

(被告愛知県)

1 主文同旨

2 担保を条件とする仮執行免脱宣言

(被告国)

1 主文同旨

2 担保を条件とする仮執行免脱宣言

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 原告は県道田籾名古屋線(以下田籾線という。)と名古屋市道環状線(以下環状線という。)が交差する古出来町交差点(以下本件交差点という。)の西北部に位置する肩書地に昭和四四年以前より居住している。

(二) 被告名古屋市(以下被告市という。)は田籾線・環状線の道路管理者であり、被告愛知県(以下被告県という。)公安委員会は右各道路につき交通規制権限を有するものである。

2  被告国の通達

(一) 警察庁交通局長は昭和四一年四月二一日、被告愛知県警察本部長に対し、「交通規制実施基準の制定について」を通知した。(以下警察庁通達という。)

(二) 建設省道路局長は昭和四二年四月二七日、「立体横断施設設置要領(案)について」(以下設置要領(案)という。)を愛知県知事及び名古屋市長に対して通知した。(以下建設省通達という。)

(三) 設置要領(案)の2の2によれば、立体横断施設が設置された場合その設置位置にある既存の路上横断施設を廃止すること、隣接横断歩道までの距離は立体横断施設の利用の低下をきたさないよう適当な間隔とすることとされ、警察庁通達(第七章・第二、三)によれば横断歩道橋が新たに設置された場所においては既存の横断歩道は廃止することとされている。

(四) なお設置要領(案)の行政解釈とも言うべき社団法人日本道路協会編集発行の立体横断施設設置要領(案)解説(以下設置要領(案)解説という。)のなかに、立体横断施設が設置された場合、設置位置にある路上横断施設は取除き、ガードフェンス等により物理的に路上横断を抑制する旨の記載がある。

3  本件歩道橋等の設置、本件横断歩道廃止等の経緯

(一) 被告市は昭和四五年二月七日、本件交差点上に「ロ」の字形の横断歩道橋(以下本件歩道橋という。)及び本件交差点の四隅の歩車道境にガードフェンス(以下本件ガードフェンスという。)を設置した。(本件歩道橋と本件ガードフェンスの設置を合せて以下本件歩道橋等の設置という。)

(二) 被告県公安委員会は同月本件交差点にある横断歩道のうち、南を除く東西北の各横断歩道を廃止した。(以下本件横断歩道廃止という。)

(三) 被告県公安委員会は昭和四七年一一月一〇日、名古屋市大規模総合交通規制(以下大規模規制という。)に基づき環状線につき横断歩道を除いて横断禁止処分をなした。(以下本件横断禁止処分という。)

(四) 被告市は昭和四八年五月、本件交差点付近の田籾線の中央分離帯上に中央防護柵を設置した。

(五) 被告県公安委員会は昭和四九年四月、本件交差点の南側の横断歩道を廃止した。

(六) 被告市は昭和四九年六月、大規模規制に基づき環状線の中央分離帯上に中央防護柵を設置した。(以下本件中央防護柵の設置という。)

(七) (三)、(六)の各措置がなされるまでは交通規制上も道路施設上も本件交差点付近において歩行者が環状線及び田籾線を路上横断することは可能であつたが、右各措置により本件交差点を基点として、環状線は南に四四〇メートル、北に三二〇メートル、合計七六〇メートル、田籾線は東に三〇〇メートル、西に一五〇メートル、合計四五〇メートル、いずれも路上横断することが不可能となつた。

(八) その後、被告県公安委員会は本件交差点に横断歩道を再び設置することはなかつた。(以下本件横断歩道の不設置という。)

4  原告の下肢の障害

原告は昭和二七年九月、当時勤務していた名古屋市交通局池下車庫において作業中に事故により両股関節複雑骨折の傷害を負い、外傷性両側股関節強直症となり、両股関節の運動機能は甚しく障害されており、昭和二八年九月一五日、労働災害等級二級の後遺障害の診断を受けた。

原告は右股関節障害により右足は二・五センチメートル、左足は三・八センチメートル程度しか挙上できず、その結果原告は二・五センチメートル以上の段差のある段を歩行のみで昇降することはできない。階段を昇降する場合、手すりが両側にあり、かつ階段の幅が人の身体の幅程度のときは両手で両手すりを持ち、身体を階段のけ上げ高以上の高さにまで持上げるという方法により、又片手すり又は両手すりの幅が広いときは片手で手すりを、片手で杖を持ち手すりと杖で身体を階段のけ上げ高以上の高さに持上げるという方法により一つ上の段に足を乗せ全部の段についてこれを繰返して最高段まで昇ることになる。降りるときは同様の方法で身体を支え足を一つ下の段まで降し全部の段についてこれを繰返して最下段まで降りることになる。

5  原告の被害

(一) 原告は、被告市がなした本件歩道橋等の設置、本件中央防護柵の設置及び被告県がなした本件横断歩道廃止、本件横断禁止処分、本件横断歩道の不設置が関連共同した結果、(二)以下に述べる経過により後記6の損害を蒙つた。

(二) 原告は昭和四四年六月三〇日以降、名古屋市南区新郊通二丁目二〇番地所在の株式会社名古屋新生活互助会(以下新生活互助会という。)に勤務するようになつたが、自宅からの通勤経路は自宅を出て本件交差点北横断歩道を渡つて古出来町(南行)バス停留所から市営バスに乗り、瑞穂通り七丁目バス停留所で一旦降車し、さらに同停留所で市営バスに乗車し、新郊通三丁目バス停留所で降車して新生活互助会に至るというものであつた。これに要する時間は約四〇分であつた。

ところが、昭和四五年二月になされた本件歩道橋等の設置及び本件横断歩道廃止のため、原告はやむなく前記4の方法で本件歩道橋の階段を昇降するようになつた。この昇降に要する時間は健常者の四倍以上を要した。このような方法を取りはじめて五、六日後原告は本件歩道橋を昇つているとき後方から駆上つてきた学生の鞄が身体に当たり跳ね飛ばされ前に転倒した。原告はもし降りているときに同様に前に転倒するときはそのまま階段の最下段まで転落し生命を失う危険があり、しかも原告が本件歩道橋を利用するのは朝夕の通勤時間帯で人の昇降が多く、杖や身体が人と接触する機会が多いためその危険が常時あると感じた。以後原告は本件歩道橋の利用を生命・身体の安全のため取り止めた。原告はそれ以来、自宅を出て環状線に達するとガードフェンスの切れ目から車道に降り赤信号等で自動車が停止し流れが止つたとき路上横断して環状線東側にある南行古出来町バス停留所に至るようになつた。

(三) 昭和四九年六月七日頃、本件交差点から北へ三二〇メートルのところにある六所社前までの環状線中央に本件中央防護柵が設置された。原告は本件中央防護柵を超えることができず、中央防護柵のあるところの路上横断は物理的に不可能となつた。

そこで原告はやむを得ず一旦古出来町北行バス停留所から環状線の北行バスに乗車し、次の横断歩道のある矢田町一五丁目バス停留所で降り、横断歩道を渡つて反対側にある矢田町一五丁目南行バス停留所から南行バスに乗車して通勤することにした。そのため、通勤時間は以前より約一五分ほど余分にかかることになつた。

(四) 原告の新生活互助会での仕事は身体的運動を伴うものではなかつた。原告は昭和四九年五月までは有給休暇も含め欠勤、休暇はなく出勤すべき日数は全て出勤していた。

原告は昭和四九年六月八日頃から前記の迂回通勤をするようになつて以後胸内苦悶感がひどくなり、同年六月二四、二五日頃には辛抱できないほどになつた。又迂回通勤をするようになつてから下腿がむくんで腫れ、一晩寝てもその腫れが幾分引く状態となつた。原告は同年六月二九日新生活互助会で職務中意識を失つて倒れた。原告は同年七月二日、医師の診察を受けたところ、胸内苦悶感があり、下腿浮腫増大が認められ、安静加療を要するとの診断を受けた。

そこで、原告は医師の助言もあつて同年七月二〇日付で新生活互助会を退職した。

退職後、同年八月頃には胸内苦悶感、下腿浮腫は軽快し、健康状態は回復した。

6  原告の被侵害利益及び損害

(一) 原告の被侵害利益

(1) 通行権の侵害

人の二足歩行は、人にとつて最も基本的な動作である。道はこの人の歩行によつて生じたものであり、歩行は道の根源である。又、社会は歩行を介しての人相互の交流にその基礎があり、交通は人間の交流と同義である。

このような意義を有する歩行は全ての人に等しく認められ、かつ保障されなければならない。歩行が不可能又は困難な人には歩行可能な者が歩行する場合と同じ状態か、又健康人と同じ歩行では苦痛を受ける者にはその苦痛なき歩行がそれぞれ保障されなければならない。これら歩行が保障された状態を概念として表現するならば、それは「通行」である。この「通行」を前提にすれば道路には障害物、勾配(自然条件によるものは別として)、階段等の表面状況の変化があつてはならない。歩行者(車椅子を利用する者も含む。)の中には老人、身体障害者等も存するのであるから勾配や階段等の表面状況の変化があることは身体障害者等の道路利用を困難ないし不可能にするからである。このような道路の表面状況に急激な変化のない状態―通行の(空間的)連続性―は、今日道が自動車により広く占拠されるところとなつたため次第に狭められてきておりその保護が図られなければならない状況にある。右保護の要請は社会的規範としての法規範にも反映し、通行の連続性は通行権として保護されるべきである。

即ち、通行の連続性は「通行」という社会的動物としての人間に不可欠なものの基礎をなし、人格権に直結するものであるから憲法一三条に由来する。又、憲法二二条一項の保障する移転の自由は居住を変える自由だけでなく広く移動する自由も含むところ、「通行」なくして人の移転はないのであるから、通行の連続性(通行権)は憲法二二条一項の保障する移転の自由の内容をなしている。

以上のとおり、通行の連続性(通行権)は憲法的に保障されている高次な権利である。

原告は昭和四四年六月三〇日以降道路の表面状況に急激な変化のない本件交差点北の横断歩道を渡つて通勤していたものであり、同所につき通行権を有していたということができる。

原告は昭和四九年六月七日頃以降歩行によつて右路上を横断することが不可能となり右通行権が侵害された。その結果原告は通勤に際し、前記5のとおり迂回通行を余儀なくされたのである。

(2) 健康被害

原告は右迂回通行によつて生じた肉体的負担のため胸内苦悶がひどくなり、同月二四、五日頃にはこれを辛抱できないほどの状態になつた。又下腿には浮腫が生じ、一晩寝ても腫れが残存するほどであつた。そして同年七月二日には医師により安静加療を要する旨の診断がなされた。

(3) 退職を余儀なくされたこと

原告は右健康被害のため、新生活互助会を昭和四九年七月二〇日付けで退職せざるを得なくなつた。

(二) 原告の損害

原告が、通行権の侵害、健康被害及び失職により受けた精神的損害は金銭に換算すれば二〇万円に相当する。

退職を余儀なくされたことによる原告の損害は、毎月の給与金六万四五〇〇円の割合による昭和四九年八月から昭和五〇年一一月までの間の得べかりし利益合計一〇三万円の喪失である。

7  本件歩道橋等の設置における道路管理の瑕疵及び本件横断歩道廃止の違法性

被告市がなした本件歩道橋等の設置は国賠法二条の道路管理に、被告県がなした本件横断歩道廃止は国賠法一条の公権力の行使に各該当するところ、右二つの措置は不可分一体の関係にあり、被告市の国賠法二条の責任、被告県の国賠法一条の責任を判断するにあたつては右二つの措置を一体のものとして考察すべきであるが、右二つの措置の目的が交通容量対策にあること、交通事故防止対策として必要性・妥当性を欠くこと、又交通事故防止効果もないこと、本件交差点付近は居住環境や歩行者の通行を確保すべき地域であるところ、右二つの措置により、多数の者、特に老人、身体障害者、病者に深甚な被害を与えたこと、交通事故防止対策としてはより適切な代替案が複数存在し、その実行が容易であつたこと、右二つの措置の実施にあたり事前の影響評価及び住民参加が欠如したこと等を総合すると右二つの措置はその態様において不法性が強く、原告の前記6の被侵害利益の種類・性質を考えれば被告市の本件歩道橋等の設置には道路管理の瑕疵が、被告県の本件横断歩道廃止には違法性があるというべきである。以下これを詳述する。

(一) 本件歩道橋等の設置が国賠法二条一項の道路の設置管理にあたること

横断歩道橋は道路と一体となつてその効用を全うする工作物であり、道路そのものに外ならない(道路法二条一項)。

したがつて設置された横断歩道橋は認定された当該路線の道路そのものである。よつて本件歩道橋は田籾線・環状線の路線道路そのものである。又、ガードフェンスは道路の付属物(道路法二条二項一号)であるが、広義では道路に含まれる(道路法二条一項)。したがつて公の営造物としては認定された路線道路と同一である。

よつて本件歩道橋、本件ガードフェンスの各設置は国賠法二条一項の道路の設置管理にあたるものである。

(二) 本件歩道橋の設置、本件ガードフェンスの設置及び本件横断歩道廃止の不可分一体性

横断歩道橋が設置されたとしても、設置場所にある既設の横断歩道が存置されるならば、その利用に苦痛を伴う横断歩道橋よりも何らの苦痛もない横断歩道の方が利用されるのは理の当然である。従つて、横断歩道橋の利用を強いるためにはガードフェンスを横断歩道橋周辺に設置することにより、路上横断ができないようにする一方、既設の横断歩道を廃止することが必要である。

そのため前記2のとおり警察庁通達及び建設省通達、設置要領(案)解説においても、横断歩道橋が設置された場合、その利用を歩行者に促すため既存の横断歩道の廃止、隣接横断歩道との長間隔、ガードフェンスの設置をなすことが当然のこととされているのであつて、右各措置は不可分一体をなすものである。

よつて、本件歩道橋の設置、ガードフェンスの設置及び本件横断歩道廃止は本件歩道橋を歩行者に利用させることを目的とする不可分一体の措置である。

(三) 本件歩道橋等の設置及び本件横断歩道廃止の目的

本件歩道橋等の設置及び本件横断歩道廃止の真の目的は交通事故防止対策ではなく、本件交差点における自動車の交通容量の増大、交通能率の向上にあつた。このことは設置要領(案)解説の記述が交通容量の増大という目的で貫かれていることからも明らかである。

(四) 本件交差点における交通事故防止対策の必要性及び本件歩道橋等の設置、本件横断歩道廃止の交通事故防止対策としての妥当性

本件歩道橋等の設置当時、本件交差点では歩行者の人身事故は少なかつた。即ち、当時の愛知県全体における人身事故中歩行者が被害者になる割合は三〇パーセント位であつたが、本件交差点内において昭和四三年では全人身事故二六件中歩行者の人身事故は三件(一一・五パーセント)、昭和四四年は二九件中五件(左折車三件、右折車一件、直進車一件、一七・九パーセント)であり本件交差点内の人身事故中歩行者の事故の割合は愛知県全体における人身事故中の歩行者のそれの割合を下回るものであつた。

一方、本件交差点付近では、自動車同士の事故による負傷者は昭和四三年二一名で八〇・八パーセント、昭和四四年は八二・一パーセントであり、物損事故を含めると全自動車事故は昭和四三年は三六件(物損事故一五件)、昭和四四年は四四件(物損事故二一件)でその内容は右左折車と直進車の事故と追突事故であつた。

このように本件交差点では歩行者の人身事故よりも自動車同士の事故の方が多く、むしろ、自動車同士の事故に対する対策が必要であつたことは明らかである。

又、自動車同士の事故は勿論のこと歩行者の事故についても自動車運転者の歩行者保護義務違反によるもので自動車側に責任がある。このような場合、交通事故防止対策としては第一に自動車に対する対策がとられるべきである。もし、本件歩道橋等の設置及び本件横断歩道の廃止がこれらの事故に対する対策であるとすれば、それはこれらの事故に何の関係もなく原因者でもない歩行者に専ら責任を負わせ、当事者であり責任者である自動車に対しては何の措置もしないということであり、「交通事故対策」として衡平を失し、妥当でない。

(五) 交通事故防止効果がないこと

本件歩道橋等の設置及び本件横断歩道廃止により本件交差点内での人対自動車の交通事故数は若干減少した程度であり、それも、自動車の円滑な通行の邪魔になる横断歩行者を道路から締め出したこと(老人、身体障害者、車椅子、乳母車、病弱者などの場合は横断歩道橋を使えないため、本件交差点の通行を中止したり、場合によつては街に外出するのを止めるに至つたりするようになる。)による反射的効果としてしか評価できないものである。かえつて、本件歩道橋を渡ることが不可能ないし著しく困難な歩行者の中には本件交差点を横断する必要に迫られて命を賭して自動車の疾走する本件交差点を横断している者もいるのであり、むしろ事故が発生した場合の事故の重大性は増大しているのである。

結局本件歩道橋等の設置及び本件横断歩道廃止は、交通安全策のなかで身体障害者、老人等最も安全がはかられなければならない人達からそれまでわずかではあるが安全であつた横断歩道という通行の場を完全に剥奪し、右の人達を危険の唯中に放り込んだのである。

さらに、日常少なからず利用されている自転車は、自動車との関係では歩行者と同じ立場において考えられるべきものである。自動車との混合交通で自動車との事故の危険にさらされている点では歩行者と等しいからである。しかし、自転車は横断歩道橋を渡ることは不可能である。したがつて必ず路上を横断しなければならない。それも、中央防護柵のはりめぐらされているときは、交差点部分をである。

横断歩道という左折の際の障害がないため、急発進して疾走してくる自動車の通る車道を自転車は、歩行者より速度が早いため視覚に入りにくいにもかかわらず常に危険にさらされて交差点を横断しなければならないのである。

(六) 本件交差点付近の地域性及び地域住民に及ぼした影響

(1) 本件交差点付近の地域性

本件交差点付近は古くからの住宅地であり、名古屋市でも最も人口密度の高い地域である。本件交差点付近には商店、銀行、病医院、学校など日常生活に欠き得ない多数の施設等が存在し、地域住民は自動車交通量が増大する以前から環状線・田籾線を横断して日常生活を営んでいた。又、本件交差点は環状線を市電が走り、市バス路線も多数集中し、付近には市電、バスの停留所が設けられていた。そのため多くの地域住民がこれらの公共交通機関を通勤・通学・買物等のため利用しており、右停留所からの乗降に際して本件交差点を横断していたものである。以上のとおり、本件交差点は地域住民の日常生活のための通行にとつて要の位置にあり、地域の生活圏を形成する中心であり、地域住民によつて頻繁に横断歩行されていたのである。

(2) 地域住民に及ぼした影響

地域住民は従来本件各道路をはさんで多数かつ頻繁に往来していたが、本件歩道橋等の設置、本件横断歩道廃止、関連諸施策(本件横断禁止処分、本件中央防護柵の設置)により歩行の連続性が害され、本件交差点の横断が著しく苦痛又は不可能となつたため、本件各道路を越えての日常生活上の諸用をなすことが、緊急止むを得ないものを除き、減少又は皆無になるに至つた。又、右措置により歩行者の車道通行が不可能になつたため、自動車は一層疾走するようになつた。これらの結果、従来は市営路面電車等の停留所のある本件交差点付近を中心としてまとまりのある日常生活圏を形成していたものが、本件各道路により本件交差点を中心として東、西、南、北の四区域に分断されるに至り、地域住民にとつて不可欠な地域内での日常生活の統一性は害され、日常生活における市民生活上の交流は著しく狭められるに至つたのである。

(3) 住民調査の結果

本件歩道橋等の設置及び本件横断歩道廃止、本件横断禁止処分による地域住民に与えた被害について、昭和四八年一二月九日行われた住民調査(以下住民調査という。)により認められる右措置による住民の被害は以下のとおりである。

ア 右住民調査は本件交差点を中心として半径三〇〇メートル、実際には別紙図面(四)の横線部分の区域の日常居住者を調査対象としている。右区域の日常居住者は戸数でいうと住民調査の時点において六七戸であつた。住民調査は右区域のうち日常居住者全戸について行なう計画であつたからこれは全数調査であり、そのうち六五戸から回答を得られており(九七パーセント)、全数調査としては精度の高い回答数である。

イ① 歩道橋に関わる住民の反応中、肉体上の理由などによつて否定的反応を示す人は約七〇パーセントとかなり高い。これは平面歩行に比べて階段歩行が、平面歩行の五ないし一〇倍の代謝エネルギーを要することからみて当然である。

② 本件歩道橋による被害の内訳と態様は次のとおりである。

この調査地域という比較的に限られた範囲においても、肉体的理由によつて(この場合、高血圧患者)本件歩道橋が全然渡れない人がいる。この人は医者へ行く場合に、本件歩道橋の下がガードフェンスによつて阻止されているため、大変遠廻りしなければ医療という生存上最低限の要求すら果せない。

この階段式の横断歩道橋の渡橋に際して肉体的苦痛を受けることを訴える市民二七名の中で二二名までが女性であり、男性よりも女性の側に被害が大きいことを示している。これは女性の方がより弱者であること、またより日常生活に密着していることからくるものと考えられる。

一般に理解されていない点として、松葉杖の歩行者が全然通行できないこと、又乳母車が通行できないことは当然であるが、幼児を載せた乳母車だけでなく、老人の中には杖代りに乳母車を押して歩く人もしばしばある。これらの人にとつては本件歩道橋は通行の禁止でしかない。

風、風雨のとき、地上高の関係で本件歩道橋上の風速は強く、そのためにかさなどは吹き飛ばされそうになる。又排水が考慮されていない露天式階段であるため、降雨時に水たまりができ、或は水しぶきが飛びはねるので衣類のすそをぬらす等の被害があり、これを訴えるのは和服の女性に限らず、若い男性にも少なくない。又降雨時等ぬれているときは階段が滑るので老人などは特に危険を感じている。本件歩道橋の幅が狭く、すれ違いが困難であることから、さまざまの問題が生じている。幼児を連れている場合、手荷物などを持つて渡る場合、かさをさして渡る場合、などに当然ながら少なからぬ困難が生じる。

③ 本件歩道橋等の設置により、生活上、交通上の変更を余儀なくされた人は通行の阻止・阻害が一一人、交際上の障害が一三人、売上減少等の事業上の障害が一三戸(又は一三事業所)となつているが、この三点は地域分断の徴表、つまり生活圏が分断されたことの指標となるものであり、約二〇パーセントから三〇パーセントの住民が地域分断の被害を受けている。

本件歩道橋の通行阻害性により、外出の回数を減らしている例は食品等の生活物資の買い出しに毎日出かけていたものを、二〜三日に一回に減らしたり、また医院への通院回数を減らしたりしている人びとがある。また通勤者の中には通勤の経路を変更しなければならなくなつている人びともおり、通行上の不便を訴える声も多い。乳母車を押す主婦、松葉杖の歩行者、また杖代わりに乳母車につかまつて歩く老人などにとつては完全通行禁止に等しく、経路変更も困難である。社会生活、地域コミュニティを成立させる上で重要な、市民相互の交際が、主には歩道橋による交通阻害によつて少なからず影響を受けているが、これはひまな老人だけの問題ではなく、すべての年代層にわたつている。業務用の品物運搬を自転車で行つていた人びとは営業にも差支えることになり損害を受けている。売上減少が生じるのは小売業・サービス業が主であり、これはその店への接近可能性が悪化したということであり、そのためお客が来るのが減つたことによる。

売上減少は地域全部ではなく、小売業等にのみ関わる問題なので、その中での減少を訴える比率としてみると、約半数になる。

しかし時代的影響の比較的少ないと思われる写真店で売上が1/2から1/3になつたと訴える店があることは、少なからず深刻な影響があることを示している。

④ 回答者の家族中にいる(回答者以外の)歩道橋渡橋困難者数は二一名である。これは調査世帯の全人口の約一割にあたる。なお、この困難の程度は単に苦痛があるという程度ではなく、具体性をもつた渡橋についての支障のある人びとである。

以上本件横断歩道橋は地域住民に多様な負担、被害を与え、又地域の日常生活圏を分断し、地域住民の一割に渡橋困難者を生じさせていることが明らかである。

(4) 横断歩道復活の住民要求

右の被害に耐えかねた地域住民は本件交差点に横断歩道を復活し、路上横断ができるように求めるようになつた。その結果、本件交差点から半径五〇〇メートル位の地域を中心として横断歩道復活の陳情署名運動が行なわれ、二ケ月位で八〇〇名以上の陳情署名がなされた。右のような署名陳情運動の中心となり、一所懸命に活動したのは老人達であつた。

このことは、これら住民、特に老人が本件歩道橋等により、継続的かつ深甚な被害を被つていたことを示す事実である。

(七) 代替案の存在とその実行の容易性

本件歩道橋等の設置及び本件横断歩道廃止に代り、横断歩行者の事故防止効果を達成でき、かつ原告及び地域住民に被害を生じさせない代替案が数種存在していた。これらの代替案のいずれかを採用すれば交通上特に問題を生ずることなく歩行者の事故を防止できたのである。

即ち、信号を改良する方法により横断歩行者の交通事故を防止することが可能であり、かつその方法の方が本件歩道橋よりも経済的であり、他の交通安全対策を充実でき全体数としての交通事故の防止に寄与できる。

本件交差点で考えられる方式として次のような方法がある。

(1) 右左折可の信号(いわゆる矢印信号)と歩行者専用信号との組合せ方式

通常の進め(青)、止れ(赤)、注意(黄)の各信号現示に加えて左折可、右折可の各信号現示(いわゆる矢印信号)を設置し、それらを直進(青)の前後に点灯し他方歩行者専用の信号を別に設置し自動車専用の右折左折の各矢印現信号が点灯し現示しているときは、歩行者用信号は赤(停止)信号とし、横断歩行者と右左折車とが交差しないようにする方式である。

右方式は自動車の信号現示に合せて歩行者用の信号現示を操作するのであるから自動車の信号現示時間に変化を生じない。又、道路施設は右代替案実施以前と同じでよく新たな道路改良を要しない。

右折車は通常は直進車があるため直進が赤信号になつた後でないと通行できないから横断歩行者と交差することはない。左折車は左折可信号のときは歩行車用信号は赤信号であるから横断歩行者と交差せず、これにより左折車は殆んど通行してしまうから直進青信号表示時の横断歩行者との交差も殆んどなくなる。

(2) スクランブル方式

自動車用信号と歩行者用信号に分け、歩行者用信号青のときは自動車用信号は全て赤とし、歩行者は交差点を随意の経路で横断できる方式である。これは歩行者用信号が青のときは自動車用信号が必ず赤のため、歩行者と自動車が絶対に交差しない方式である。

右の歩行者と自動車の交差の遮断はそれぞれの通行時間を分けてなされるため自動車通行のための信号表示時間は減少することになる。仮に歩行者も自動車と等しい信号表示時間を有するとすると、例えば従前東西南北各六〇秒ずつ信号表示時間が分割されていた(青、黄、全赤も含む)ものが歩行者四〇秒、東西自動車四〇秒、南北自動車四〇秒の信号表示時間に分割され(青・黄・全赤を含む)約三五パーセント自動車の信号表示時間が減少し、交差点の交通容量が減少することになるが、本件交差点においてはその交通容量にかなり余裕があり、右方式により交通容量が減少したとしても、交通需要はその交通容量の範囲内にあり、交通渋滞は生じないと考えられる。

(3) セパレート方式

自動車用信号を東西直進、東西右折、南北左折、南北直進、南北右折、東西左折のように分け、各直進のときに歩行者の直進横断を認める方式である。これも歩行者と自動車の交差を絶対的に防止できる方式である。

これらの方式の中で歩行者と自動車を交差しないということを絶対的前提とすれば、(2)のスクランブル方式は道路の条件(セパレート方式は最低各方向三車線以上の道路幅がいる)にかかわりなく設置できる利点がある。(2)のスクランブル方式、(3)のセパレート方式はいずれも数学でいう順列・組合せの一例であり、極めて平易なことである。

又、歩道橋は昭和四二年において六車線の道路の交差点に「ロ」の字型の歩道橋(四基の歩道橋に相当する)を設置するには四〇〇〇万円かかることになるのに対して、右各信号の改善は右歩道橋一基分の費用以下で賄え、著しく経済的である。交通安全対策にとつて経済的であることは残つた財源を他の交通安全対策に活用し事故数の減少に寄与することができるのであつて極めて重要である。

なお、セパレート方式については、名古屋市交通局は昭和六〇年四月三〇日から田籾線において基幹バス「新出来町線」を運行することとなつたが、これに伴い被告県公安委員会は車線を四車線対三車線合計七車線とし、セパレート方式の信号による交通規制を実施しており、本件交差点においても三―四車線によるセパレート方式の信号による交通規制がされている。これにより、原告が代替案として指摘しているセパレート方式が可能であり実施し得ることを、被告県も認めて実施したことが事実によつて明らかになつた。

(八) 事前の影響評価及び住民参加の欠如

本件歩道橋等の設置及び本件横断歩道廃止の行政施策を決定するに際しては、本件歩道橋等の設置を決定するに至つた原因事実の実態及び本件歩道橋の設置等により影響を与える全項目、とりわけ、

(1) 歩行困難者、歩行代替物使用者等に与える全影響項目

(2) 地域住民の日常生活に与える全影響項目

について事前にその調査を行い、各項目について評価を与え、原因事実に対する対策として複数の歩道橋以外の代案を作成し、各対策案について、その対策が実施されることで日常生活上最も影響を受ける地域住民に対し、各資料を公開の上その賛否を聴取しなければならなかつた。

なぜならば事前影響評価は、道路管理等は自由裁量ではなく管理権には道路管理目的による限界が理論上存在する以上、道路管理をその信託目的に合致させるために不可欠なものとして要求されるからである。又、本件交差点付近の特色に述べたように地域住民は通行権を有しており、横断歩道橋等の行為は、これらの通行権を剥奪するものであり通行権者に対する事前の告知、聴聞、放棄の手続が必要である。したがつて各資料を公開の上での賛否手続がなければならないのである。

然るに被告市及び被告県は右の事前調査、評価をせず、かつ代案の作成を行なわず、行政指針としての設置要領(案)にのみ安易に従い、原告を含む地域住民に対しては何らの賛否の手続をとらなかつたものである。

(九) 横断歩道橋の設置及びそれに伴う横断歩道廃止に対する悪評価と横断歩道の復活

歩道橋は従来横断歩道の存在していたところに横断歩道を廃止して設置されるものが少くない。これは旧来から歩行者は身体的負担なく横断していたものを奪い新たに身体的負担を課すものである。又、自動車は横断歩道を横断し又はしようとしている歩行者がいるときは横断歩道の直前で一時停止かつ歩行者の横断を妨げないようにしなければならない等横断歩道上の歩行者は優先されるので、横断歩道上で歩行者と自動車との事故が発生したときは自動車の側に責任がある。このような事故を防止することが歩道橋の目的であるとするならば、それは事故の責任のない側に身体的負担を強いるものである。

このように歩行者という負担の大きい側に負担を負わせ、かつハンディキャップの大きい者ほど負担が大きくなり、旧来から有していた負担のない状態を奪い責任もないのに負担を強いるという方策は文明レベルの高い者の考えることではない。文明国ではハンディキャップを解消し障害者を解放しようというものであり、旧来有していた負担のない状態を奪い負担を強いるというのは論外である。

それ故諸外国においては街中において歩道橋を見かけることはなく、立体横断施設が存するときでも横断歩道が存置され路上横断も可能なのである。

今日、歩行者、特に身体障害者、老人に犠牲と負担を強いる歩道橋が誤まつたものであることは社会的に定着した。歩道橋を「交通安全対策」として賛美する論は存せず、歩道橋は歩行者、身体障害者、老人等に犠牲、負担を強いるもので害悪であり不要のものであるという論ばかりである。

そのため歩道橋の直下、脇等に一旦廃止された横断歩道が復活し設置されるようになつた。警察庁においても横断歩道を歩道橋に併設せざるを得なくなつたのである。そして、歩道橋のそばに横断歩道を設けたところ歩道橋はほとんど利用されないため今後は利用度の低い歩道橋から廃止されることになつた。

これは結局歩道橋が設置される以前の状態に戻ることに外ならない。歩道橋は完全に失敗だつたことが行政当局の手により事実によつて明らかとなつたのである。

8  本件横断禁止処分の違法性及び本件中央防護柵の設置が道路管理の瑕疵にあたること

被告県がなした本件横断禁止処分は国賠法一条の公権力の行使に、被告市がなした本件中央防護柵の設置は国賠法二条の道路管理に各該当するところ、右二つの措置は大規模規制の一環である環状線規制の内容の一部をなすもので不可分一体の関係にあり、被告県の国賠法一条の責任、被告市の国賠法二条の責任を判断するにあたつては右二つの措置を一体のものとして考察すべきであるが、環状線規制は大規模規制の基本理念に反し、又通過交通の誘導分散という規制目的を実現しないものであつて妥当性を欠くものである。又、本件交差点付近は居住環境や歩行者の通行を確保すべき地域であるところ、本件歩道橋等の設置及び本件横断歩道廃止に加えて右二つの措置がなされたことにより、多数の者、特に老人、身体障害者、病者に深甚な被害を与えた。加うるに右二つの措置の実施にあたり事前の影響評価及び住民参加が欠如していることを併せ考えると、右二つの措置はその態様において不法性が強く、原告が受けた前記6の被侵害利益の重大性に照らすと、被告県の本件横断歩道廃止には違法性が、被告市の本件中央防護柵の設置には道路管理の瑕疵があることは明らかである。以下これを詳述する。

(一) 本件中央防護柵の設置が道路管理にあたること

道路中央防護柵は道路付属物(道路法二条二項一号)であるが、広義では道路に含まれる。よつて本件中央防護柵等の設置は被告市がなした道路の設置管理にあたる。

(二) 本件横断禁止処分及び本件中央防護柵の設置が不可分一体の関係にあること

本件横断禁止処分及び本件中央防護柵の設置は被告県が計画した総合規制の一環をなす環状線規制の内容をなすものである。環状線規制においては本件横断禁止処分を担保するため本件中央防護柵を設置することとされ、右設置にあたつては被告県が被告市に対し依頼し、両者の間で協議がなされたものであつて、右二つの措置は客観的・主観的にも不可分一体の関係にある。

(三) 環状線規制が総合規制の基本理念に反すること

(1) 大規模規制の構想・基本理念

大規模規制は次のような考えから構想・計画されたものである。

名古屋市内の交通事故は昭和四七年八月末現在で人口一〇万人当りの死者数が東京二三区内の一・九倍である。その原因は名古屋市内の交通流において通過交通が都心部を通り通過交通と地域交通が混在している等のため交通安定流が阻害されていること、公共交通機関依存率が低いこと、都市がスプロール的に発展し都市の拡散と成長の過程にあり地域社会としてのまとまりが未形成であることにある。

このような原因に対処し交通事故を減少させるためには交通流を再配分し通過交通と地域内交通を分離することと、交通需要そのものを管理することがなされなければならない。そのため第一歩として、既存の道路を最も安全かつ効率的に利用してこれらの目的を実現しなければならない。

以上の考えに基づき大規模規制は立案されたが、その際の基本理念の一つとして、交通量の再配分においては既存の道路の状態、道路をとりまく地域の用途や特性に応じて適正に利用されるべきで無秩序な利用は認められるべきでなく、地域の特性―住宅地域、商業地域等―に応じた適正な利用を促進しなければならず、そのため無秩序な交通の流れを整理し、意図的に交通流の再配分を広範に行うべきであることとされた。

(2) 本件交差点付近の地域性

環状線の東側地域は市街地で住宅地域であり人口密度も大きかつた。本件交差点付近は古くから住宅地域であり、環状線規制実施のころにおいて名古屋市で最も居住人口密度の大きい地域の一つであつた。又、環状線・田籾線の供用以前から街区を形成しており、両道路をはさんで住宅地域を形成してきていた。さらに本件交差点は公共交通機関の要として多数の利用者があつた。

したがつて(1)の大規模規制の基本理念からは、環状線の東側地域や古出来町交差点付近は住宅地域=居住地域としてそれに応じた道路の適正な利用、つまり居住環境を良好なものに確立し自動車交通によるそれの不当な侵害がないようにしなければならない地域なのである。

(3) 大規模規制の一環としての環状線規制について

ところで、大規模規制においては環状線内部の地域生活圏、経済圏を防護するため生活圏、経済圏規制を行ない、これにより地域生活圏から締出された地域交通を幹線に流入誘導する一方、交通規制及び施設整備によつて環状線を通過交通路としての性格を強め名古屋中心部の幹線路を利用する通過交通をこれに誘導することとされた。そこでは環状線は人よりも車優先の道路とされ、それに沿つた交通規制等(歩行者横断禁止、中央分離帯の閉鎖、速度制限五〇キロメートル毎時等)が行なわれることになる。

これは環状線の東側地域及び本件交差点付近の地域性(住宅地域)に応じた道路の利用(歩行者優先)とは正反対の規制である。前記大規模規制の基本理念に反した誤つた規制と言わねばならない。

(四) 本件交差点付近の環状線規制の異常性

環状線規制においても、環状線は二〇〇〜三〇〇メートルの間隔で路上横断できたが、本件交差点付近が南北七六〇メートルもの間路上横断ができないのは異常なことといわなければならない。又、環状線には本件交差点より歩行者、自動車の交通量が多い交差点がある(千種区今池、今池北、北区黒川、東大曽根)のにこれらには歩道橋は全くなく環状線全体で路上横断ができない「ロ」又は「コ」の字型の歩道橋は五ケ所にすぎず、これも異常なことである。

本件交差点付近は、大規模規制の基本理念からは優先的に歩行等の居住環境が保護、拡充されるべきなのに環状線規制では逆に他の箇所では保障されている路上横断すら奪われ、環状線で最も歩行者路上横断つまり歩行者が劣後している地域となつた。

(五) 環状線規制の規制目的である通過交通の誘導分散が実現しないこと

環状線規制は都心部の通過交通を環状線に誘導し集中させようというものである。環状線の内部を通る通過交通は、国道一号線―国道二二号線が図抜けて多く、次いで国道一号線―名古屋瀬戸線、国道一号線―国道四一号線の順である。

一方環状線内部の道路の幅員をみてみると幅員三六メートル以上の道路が多数存在している。これはいずれも環状線よりも広幅員であり交通容量の大きい道路である。右通過交通量の多い区間はいずれも環状線を通るよりも環状線の内部のこれらの広幅員の道路を通るほうが短距離である。

目的地に早く達するためには最短距離を通ることがそこの交通障害によつて最短距離と他の場合との時間差を失なつてしまわないかぎり、最もよい方法である。通行者の心理においてもこのことは言え、通行者は最短距離を志向して通行する。環状線内部には前述のように環状線より広幅員の道路が東西、南北それぞれ多数存在し、都心部ほどより多く存在しており、特定路線に交通が集中する形になつていない。したがつて、環状線内部を通る交通量の多い通過交通は、その区間の通行時間が最短であること、又通行者の心理面からも最短距離の路線を通ることになり環状線を通行することにならない。

この予測は環状線規制の前後の交通量調査によつて裏付けられている。環状線規制によれば通過交通を中心とする自動車交通流を環状線に集中させるというものであるから規制後は環状線の交通量が増大するはずである。しかし、環状線規制前の昭和四六年と環状線規制後の昭和四九年の交通量を比較すると、環状線規制後の昭和四九年のほうが約一二パーセントも交通量が減少し、昭和四三年の交通量さえも下廻つている。環状線規制にかかわらず、環状線には自動車は通行しなくなつたのである。

結局古出来町付近住民に南北七六〇メートル、東西四五〇メートルの間身体障害者、老人を含む歩行者の路上横断を禁じ、かつ封じながら、環状線内部の通過交通等の交通流を環状線に誘導分散させようという環状線規制はその目的が実現されていず、かつこれは予測できたことである。古出来町付近住民は実現されない行政目的のためこれまで享受していた路上横断を奪われ犠牲を強いられることとなつたのである。

(六) 事前の影響評価・住民参加の欠如

環状線規制の実施にあたつて事前に本件交差点を始めとする環状線沿線の地域性(大規模規制が最も保護しようとしている住宅地域であること)は調査、評価されず、又本件交差点は最も居住人口密度の高い住宅地域であること、本件交差点を中心として旧来から一群としての住宅地域を形成してきたこと、それにもかかわらず南北七六〇メートル、東西四五〇メートルの間全く路上横断ができなくなることについて全く調査評価されていない。又通過交通が果して環状線に誘導分散されることになるかが十分に調査評価されていない。

又地域住民は通行権を有しており、本件横断禁止処分、本件中央防護柵の設置はこれらの通行権を剥奪するものであり、通行権者に対する事前の告知・聴問・放棄の手続が必要であるところ、昭和四七年五月以前に、大規模規制の要否及びその内容について地域住民の意見や事情の聴取がなされたことは全くなく、又周知のための説明会すら開催されていない。

9  本件横断歩道不設置の違法性

本件において、環状線規制までは危険性はあつたが路上横断ができ、一応通行の連続性が存在していたのに、環状線規制によつて本件交差点では七六〇メートルの間路上横断ができないようにされ、通行の連続性が奪われることになつた。

通行の連続性、居住交通環境は最も保護され拡充されなければならず、これを奪つたり劣化させるべきものではない。又環状線規制の基本理念からも本件交差点付近は最も歩行者を保護すべき地域であつた。

一方通行の連続性を確保し歩行者の事故を防止するため前記7(七)のとおり横断歩道を設置する方法が数種あり、これらを実施すれば直ちに通行の連続性を確保しつつ歩行者の事故を防止することができたのである。

以上のとおり、本件交差点では環状線規制により、通行の連続性という要保障性の高い権利利益が実際に極端に奪われたのに対し、他方歩行者の事故を防止しつつ通行の連続性を確保できる横断歩道の設置を容易になし得る状況にあつたことを考えると、被告県公安委員会としては環状線規制に際して本件交差点に横断歩道を設置すべき義務があつたというべきである。然るに右義務を懈怠し横断歩道を設置しないことは著しく合理性を欠いており違法であると言わざるを得ない。

10  被告国の教唆

被告国は前記2のとおり設置要領(案)を被告市に、設置要領(案)及び警察庁通達を被告県に通知することにより、被告市の道路管理の瑕疵である本件歩道橋等の設置及び被告県の違法行為である本件横断禁止処分及び本件横断歩道の不設置を各教唆したものである。

11  被告らの責任

(一) 被告市及び被告県の責任

前記のとおり、被告市の道路管理の瑕疵である本件歩道橋等の設置、本件中央防護柵の設置及び被告県の違法性のある本件横断歩道廃止、本件横断禁止処分、本件横断歩道の不設置が関連共同した結果、原告に前記6(二)の損害を与えたものであるから、被告市及び被告県は共同不法行為者として原告の右損害を賠償すべき義務がある。

(二) 被告国の責任

被告国は前記10のとおり、被告市の道路管理の瑕疵及び被告県の違法行為を教唆したものであるから、民法七一九条二項により被告市と被告県と共同して原告の前記損害を賠償すべき義務がある。

よつて原告は被告らに対し、各自共同不法行為に基づく損害賠償として一二三万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和五〇年一二月二五日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

(被 告 市)

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2(二)の事実のうち被告市に対し原告主張の通知があつたことは認めるが、その余の同2の事実は知らない。

3(一)  同3(一)の事実は認める。

(二)  同3(二)の事実のうち時期の点は否認し、その余は認める。

本件横断歩道廃止がなされたのは昭和四五年四月二〇日である。

(三)  同3(三)の事実は認める。

(四)  同3(四)の事実のうち時期の点は否認し、その余は認める。田籾線に中央防護柵が設置されたのは本件交差点から西は昭和四八年七月二日であり、東は同年九月二七日である。

(五)  同3(五)の事実のうち時期の点は否認し、その余は認める。本件交差点の南側の横断歩道が廃止されたのは昭和四九年五月三〇日である。

(六)  同3(六)の事実のうち時期の点は否認し、その余は認める。環状線に本件中央防護柵が設置されたのは本件交差点から北は昭和四九年七月二九日であり、南は同年八月九日である。

(七)  同3(七)、(八)の事実は知らない。

4  同4の事実のうち、原告が名古屋市交通局池下市電修理工場において事故により傷害を負つたことは認め(但し時期は昭和二八年頃である。)、その余は知らない。

5  同5の事実は知らない。

6  同6の主張は争う。

7  同7の主張のうち(一)は認め、その余は争う。

8  同8の主張のうち(一)は認め、その余は争う。

9  同11の主張のうち被告市の責任については争う。

(被 告 県)

1  請求原因1(一)の事実のうち、田籾線と環状線が本件交差点で交差していることは認め、その余は知らない。同1(二)の事実は認める。

2  同2(一)ないし(三)の事実は認め、同2(四)の事実は明らかに争わない。

3(一)  同3(一)の事実は認める。

(二)  同3(二)の事実のうち時期の点は否認し、その余は認める。本件横断歩道廃止がなされたのは昭和四五年四月二〇日である。

(三)  同3(三)の事実は認める。

(四)  同3(四)の事実は知らない。

(五)  同3(五)の事実は時期の点は否認し、その余は認める。本件交差点の南側の横断歩道が廃止されたのは昭和四九年五月三〇日である。

(六)  同3(六)の事実のうち、被告市が本件中央防護柵を設置したことは認める。

(七)  同3(七)は明らかに争わない。

(八)  同3(八)の事実は認める。

4  同4の事実のうち原告の身障度については否認し、その余は知らない。

5  同5(一)、(三)の事実は否認し、同5(二)の事実は知らない。同5(四)の事実のうち原告が迂回通勤後、その主張の症状が生じたとする点については否認し、その余は知らない。

6  同6の主張は争う。

7  同7の冒頭の主張のうち本件歩道橋等の設置と本件横断歩道廃止を一体のものとして考察すべきであるとする点は認め、その余の同7の主張は争う。

8  同8の冒頭の主張のうち、本件横断禁止処分と本件中央防護柵の設置が環状線規制の内容の一部をなすこと及び同8(三)(1)の事実、同8(三)(3)の事実のうち環状線規制の内容は認め、その余の同8の主張は争う。

9  同9の主張は争う。

10  同11の主張のうち被告県の責任は争う。

(被 告 国)

1  請求原因1(一)の事実は知らない。同1(二)の事実は認める。

2  同2の事実は認める。

3  同3(一)、(二)の事実は認め、その余の同3の事実は知らない。

4  同4、同5の事実は知らない。

5  同6ないし同10の主張は争う。

6  同11の主張のうち被告国の責任については争う。

三  被告らの主張

(被 告 市)

1  原告の通行権の主張と道路の機能の多様性

通行権についての原告の主張は、車が出現せず、人の歩行のみに利用されている時代、あるいは現代においても小地域の、生活道路についてならば、ある程度、首肯し得るものがあろう。

しかし、現代において、道路の種類は、道路法の道路だけでも高速自動車国道、一般国道、都道府県道、市町村道とあり(道路法三条)、その機能性格別分類としては、都市についてだけでも都市間幹線道路、都市内幹線道路、都市内生活道路がある。

本件環状線、田籾線は都市内幹線道路であり、原告のいう平面通行権はその法的根拠(それもないが)を論ずるまでもなく失当である。

2  本件横断歩道橋の設置についての影響事前評価欠如、住民不参加の主張と本件事業の緊急性・住民の設置の陳情

横断歩道橋の設置にあたり本件交差点における交通事故について調査した結果、「交通事故が多発している道路その他緊急に交通の安全を確保する必要がある道路」(交通安全施設等整備事業に関する緊急措置法(以下交通安全事業法という。)一条)として交通安全施設等整備事業を実施する必要があることが明らかになり、右事業により事故が激減することが予想された。

又、右交差点における交通事故の多発を理由に付近住民からも早期の歩道橋の設置の要望がなされ、その設置は大いに喜ばれたのである。

かかる場合において、原告のいう影響評価調査、住民不参加の主張は、そもそも失当である。

3  横断歩道間の距離の主張における原告個人訴訟としての範囲の逸脱

本件訴訟はあくまでも原告個人としての訴訟であつて、住民訴訟ではない。

したがつて、原告居住地から本件横断歩道を廃止されたことにより遠くなつた距離だけを主張すべきであるにもかかわらず、「南北七六〇メートル、東西四五〇メートルもの間横断をさせず」との主張をするのは失当である。

4  本件横断歩道の廃止、設置は道路管理者の管理の内容(裁量の範囲内)であり、原告から非難されるいわれはない。

まして、通行権、歩行権を強く主張する原告の歩行距離からみれば、遠くなつた距離はわずかなものに過ぎず、受忍すべき範囲である。

(被 告 県)

1  いわゆる通行権侵害の主張について

原告の主張は、原告がいわゆる「通行権」なるものを保有し、被告県の行為は、右「通行権」を侵害する点において違法である、となしているように解されるが、原告のいう「通行権」なるものの実態は、要するに、講学上のいわゆる「道路の自由使用」又は「道路の一般使用」にほかならない。道路の自由使用又は一般使用とは、誰でも、他人の共同使用を妨げない限度で、道路の用法に従い、行政庁の許可等の手続を要せず、自由にこれを使用することができることをいうのである。即ち、道路の自由使用の利益は道路が一般交通の用に供されることによつて生ずる反射的利益にすぎないものであつて、道路使用の権利として保護されるべきものではないのである。原告は、右のように、法的保護に値しない道路の自由使用の利益に対し、「通行権」なる名称を付しているにすぎないのである。そうであるとすれば、原告のいわゆる「通行権」の侵害が、何ら違法なものでもなければ、原告に損害を生ぜしめるものでもないことは、自明の理である。

2  原告の損害の不存在

(一) 損害そのものの不存在

(1) 原告は、重度の身体障害者であると主張しているが、右主張は真実に反する。

原告は、自己の身障度について、後遺症障害第二級とされたと主張している。しかしながら、原告の右主張の真偽は、はなはだ疑わしいところである。すなわち、原告の身体障害者手帳によれば、原告の身体障害者程度等級表による級別は第四級とされ、日本国有鉄道旅客運賃減額は第二種とされている。ところで、右等級表において第四級の障害とされているものは、原告の主張するような重度のものではなく、又、日本国有鉄道の「身体障害者旅客運賃割引規則」によれば、第二種身体障害者とは、乗車、下車及び階段の昇降等を含めて、旅行につき、介護者を必要としない身障者を予定しているのである(右規則第二条、第三条)。したがつて、これらの諸点から見て、原告の身障度がその主張の如き重度のものではなく、他人の介護を要しないで、階段を昇降することが可能である程度を出ないことが明らかである。

右の点は、次の事実によつて一層明らかである。即ち、本件の審理は、昭和五一年二月三日の第一回口頭弁論期日から昭和五四年二月九日の第一六回口頭弁論期日まで、旧裁判所庁舎二階の法廷で行われたが、原告は、その間一回も欠席することなく本件の審理を傍聴している。旧裁判所庁舎の階段は、本件歩道橋の階段よりも段差が大きかつたにもかかわらず、原告は、他人の介護を受けることなく一人で右階段を昇降していた。この事実からみて、原告の身障度が本件歩道橋の昇降を不可能ならしめるほど重度なものでないことは、極めて明らかである。

(2) 原告は互助会に迂回通勤した旨主張するが、原告がその主張のような迂回通勤をなした事実は存在しない。

即ち環状線の本件交差点北側に本件中央防護柵が設置されたのは昭和四九年七月二九日であつて、原告が互助会で発病し、その後は互助会に通勤しなくなつたという同年六月二九日はもちろん、原告が正式に互助会を退職した同年七月二〇日よりも後のことである。したがつて、原告がその主張する迂回通勤をなした事実はなく、道路上を通つて環状線を横断し、南行バスに乗車して通勤していたことが明らかである。したがつて、原告の発病原因を迂回通勤に求め得ないことは明らかである。

(二) 被告県の行為と原告の損害との間の因果関係の不存在

(1) 原告は、互助会へ迂回通勤をすることにより、健康を害したため、医師の勧告に従つて互助会を退職せざるを得なくなつた、と主張し、あたかも、原告が互助会を退職したことと被告県の行為との間に因果関係が存するかの如く主張しているが、以下に述べるとおり、右主張は明らかに事実に反するものである。

(2) 前記1(一)(1)において述べたように、原告の身障度は、本件歩道橋の昇降が不可能であるほど重度なものではないから、原告は本件歩道橋を利用することが可能であり、迂回通勤をしなければならなかつた必要性は全く認められない。

したがつて、仮に原告がその主張のような迂回通勤をなした事実があるとしても、右迂回通勤自体と被告県の行為との間に因果関係を認めることは、到底不可能である。

(3) 原告がその主張のような迂回通勤をなした事実があると仮定しても、原告主張の迂回通勤は、往路のみに関するものであつて、復路では迂回の事実は存しない。しかも、右迂回による影響は、往路の所要時間が約一五分増加する程度のものにすぎないうえ、右時間増加は、バス待ち及びバス乗車時間の増加によるものであつて、歩行時間には何らの変化もないのである。

したがつて、前記迂回通勤に伴う原告の身体的負担の増加は、もともと存在しないか、仮に存在するとしても、極めてわずかなものというべきであるから、原告が右迂回通勤のために昭和四九年六月二九日互助会で発病したことなど、およそあり得ないところである。迂回通勤の事実が仮に存在するとしても、これと原告の主張する発病との間に因果関係の存在しないことは明らかである。

(4) 原告が互助会を退職せざるを得なくなつた疾病とは、具体的にいえば、原告が昭和四九年六月二九日互助会で異常を訴えて倒れたことである。仮に右のような事実があつたとしても、右発病と原告の主張する迂回通勤に伴う身体的負担の増加との因果関係は以下に述べるとおり医学的にもこれを否定するのが正当であるというべきである。

即ち、原告は昭和三三年頃から心臓に異常を感じており、昭和四三年七月から高血圧症で治療を受け、昭和四五年六月四日以来高血圧症並びに心不全という病名で治療を受けていた。

そして、高血圧は心不全を誘発させる極めて有力な一因とされている。原告は当時七二歳という高齢であり、かつ相当長期間にわたり高血圧症と心不全についての治療を受けていた事実からみて、原告の病状に変化が生じたのは、加齢と持病にその原因があるものと理解するのがはるかに自然であり(前述したように、高血圧は心不全を誘発する有力な一因となつていることに留意さるべきである)、極めて確実な証拠による裏付けを伴わない限り、これらの原因を排して他にその原因を求めることは、到底不可能である。なお、原告がその持病ともいうべき高血圧と心不全に罹患したのは、その発病の時期からみて、被告県の行為と全く無縁であり(原告は、本件歩道橋の設置前から高血圧症及び心臓の異常を訴え、かつ、心不全は高血圧によつて誘発されるものであるからである)、いわば原告自身の素質にその原因があるというべきものである。医師が退職を勧めた理由は、原告が高齢であり、かつ心臓の持病(心不全)があることからみて、通勤の問題ではなく、働くことそれ自体が健康に有害である、と判断したとも考えられ、右退職勧告の事実から原告主張のように推測することは、到底不可能である。

(三) 原告が被つた不利益の法的利益性について

仮に本件歩道橋の設置等により原告に何らかの影響があつたとしても、それは身体障害者として本件歩道橋の利用が不可能ないし負担がかかることによる生活上の不便さということになる。かような生活上の利便に関する多少の不利益については、これを不法行為上の保護すべき法的利益の侵害ととらえるのはいささか無理があることは論をまたないところである。

ましてやそれが、本件歩道橋の設置等のような当時の異常な交通事情の下で、大多数の歩行者の安全を確保すべくなされた公共的措置によるものである場合にはなお更というべきである。

したがつて、被告県による違法行為の存在を前提とする原告の被告県に対する請求は、その余の争点に対する判断をまつまでもなく、失当である。

3  被告県の行為の正当性

(一) 原告が被告県の違法行為として主張するところは、

① 本件横断歩道廃止

② 本件横断禁止処分

③ 本件横断歩道の不設置

の三つであるが、これらの行為(不作為を含む。以下同じ。)は、その内容面において何ら実定法規に違反しないことはもちろん、手続面においても根拠法令に準拠してなされたものであるから、これらの行為を違法視する余地は全くない。

そこで、以下には、被告県が右①ないし③の各行為に及んだ当時の交通事情の実態を明らかにし、次で右①ないし③の各行為の合理性、正当性を順次明らかにする。

(二) 当時の交通事情とその対策

(1) 昭和三〇年代を通じてモータリゼーションが急速に進展した。時間距離の短縮と交通利便の増大がモータリゼーションの光の部分とすれば、その陰は交通事故の増大であつた。同三〇年代一〇年間に交通事故の件数は六・〇倍、死傷者数は五・三倍に増加し社会問題となるに至つた。その最大の原因は交通安全施設の整備の立ち遅れにあるとされ、その整備が緊急の課題とされた。

このため政府は、同四〇年一月の「交通事故防止の徹底を図るため緊急対策について」(交通対策本部決定)において、交通安全施設の整備拡充を交通安全対策の最重点として推進することとし、その法的裏打ちとして「交通安全施設等整備事業に関する緊急措置法案」を第五一回国会に提出し、同四一年四月一日公布施行された。

同法の制定に伴い、これに基づき、交通安全事業を実施すべき道路として四万三七〇〇キロメートルが指定され、この指定道路について交通安全施設等整備事業三箇年計画(第一次三箇年計画)が同四一年七月一五日閣議決定された。

このような折、昭和四一年一二月愛知県猿投町における三〇余名の保育園児の死傷事故等大規模な事故が発生した。このため、同四二年七月第五五回国会に「通学路に係る交通安全施設等の整備及び踏切道の構造改良等に関する緊急措置法案」が議員立法として提出され成立した。

この法律に基づき、前述の第一次交通安全事業三箇年計画は、同四二年一二月一日の閣議で拡大変更された。

以上の措置により、交通安全施設は大幅に整備されつつあつたが、自動車交通量の急増により交通事故の発生は依然として増加傾向をたどつていた。

このため、昭和四三年度までの措置に引き続き、同四四年度以降の三箇年間においても交通安全施設等整備事業を実施するため交通安全法の改正が必要とされ「交通安全施設等整備事業に関する緊急措置法の一部を改正する等の法律案」が第六一回国会で成立し、同四四年三月三一日公布、翌日施行された。

この改正で、都道府県公安委員会及び道路管理者は協議により、緊急に交通の安全を確保すべき必要があると認められる道路について昭和四四年以降の三箇年間において実施すべき交通安全施設等整備事業に関する計画を作成し、国家公安委員会及び建設大臣に提出しなければならないものとされ、さらに、同年四月一八日国家公安委員会・建設省告示第一号によつて定められた右計画案作成に関する基準において、右計画案を作成すべき道路の区間が明らかにされたが、本件交差点は、右基準の定める第一号ないし第五号のすべてに該当するものである。

右法改正に基づき、昭和四四年度以降三箇年間に係る「特定交通安全施設等整備事業三箇年計画」(第二次三箇年計画)が同年一二月二日閣議決定されたが、右計画においては、横断歩行者の交通事故が発生するおそれが大きいと認められる道路には、横断歩道橋等を整備し、児童及び幼児の交通事故が発生するおそれが大きいと認められる通学路には、横断歩道橋等を整備するものとされている。

右第一次、第二次三箇年計画で昭和四一年以降の計画の事業費は、別紙1のとおりである。

(2) 戦後一貫して増加してきた交通事故は、事故件数において昭和四四年、死傷者件数において同四五年をピークとして以後逐年減少傾向をたどつている。

即ち、件数は、同四四年の七二万八八〇件が同五〇年には四七万二、九三八件と三四・四パーセント減となり、死者数は、同四五年の一万六、七六五人から同五〇年一万七九二人へと三五・六パーセント減少している。

このことは、交通安全施設の整備、交通取締りの強化、運転者対策の充実、交通安全教育の充実等各種施策の総合的な成果と考えられるが、とくに交通安全施設等の整備が急速に進んだことが交通事故減少に大きく寄与しているのである。

交通安全施設の事業量と交通事故の推移は別紙2のとおりである。

交通安全施設のうち、歩行者と自動車の完全分離を図る立体横断施設・横断歩道橋の効果は絶大である。

(3) 愛知県下においても、自動車保有台数は、昭和三八年が四二万四、二〇〇台であつたものが、昭和四五年には約一三〇万台と激増しており、これに伴い、人身事故も昭和三八年当時死者が六七八人、負傷者が二万八三六九人程度であつたものが、昭和四四年当時には死者が九一二人、負傷者が五万六、二〇〇人にも達するに至つたのである。

(4) 被告県の前記①ないし③の各行為は、以上述べたような当時の深刻な交通事情の下で、その一連の対策の一つとして、当時の社会的要請を背景になされたものであり、この点からもすでにその合理性・正当性は明白である。

(三) 横断歩道廃止の正当性

(1) 本件歩道橋等の設置と本件横断歩道廃止の不可分一体性

本件横断歩道廃止は、本件歩道橋の設置と密接不可分な行為であり、その合理性は同時に判断されるべきものである。以下その理由を述べる。

そもそも交差点における横断歩道橋は、高速度交通機関たる自動車の氾濫という状況を背景に、交差点を通過する車両と歩行者を同一平面上で捌くのみでは、もはや人身事故の完全な防止を期し難いことから、車両と歩行者の通行平面を分離するという、いわゆる「人・車分離の思想」に基づき案出された施設である。即ち、歩道橋の設置は、これによつて交差点歩行者に交差点車道から離隔された、安全な歩行路を与えるものであり、それは結局歩行者を車両から完全に分離することを企図する施設である。

そもそも、車道と同一平面上に存する「横断歩道」は、歩行者が当該道路を横断するにあたつて通行上の安全を確保しようとの意図の下に案出された施設である。しかしながら横断歩道は、かかる歩行者の安全確保にあたつて、これと交差通行する各種車両の運転者の道路交通法規の完全遵守と、当該車両運転上必要とされる完全な技術あるいは当該運転車両の完全な整備等の諸要素に期待せざるを得ない施設である。したがつて右のような「期待」が一つでも外れた場合、当該施設の有効性を信じ、信号等に従つて横断する無防備な歩行者の生命・身体が一瞬のうちに毀損されてしまうことは避け難い現実である。

しかるに、車両運転者は必ずしも完全な遵法精神の持主ばかりではなく、むしろいわゆる無暴運転常習者が跡を断たないのであり、車両運転者も人間である以上、運転中他事の思念にふけり前方あるいは左右の注視を怠ることもしばしばみかけられるところである。また車両運転者のなかには、免許取得後間もない初心者もあり、また使用される車両のなかには、制動装置等の整備が不十分のまま走行しているものもあるのである。このほか、車両そのものが一つの構造物であり現在機械的には一応完成されたものとされているが、構造上完璧な安全を期することは困難とされている。例えば、車両運転者が運転席から注視しうる範囲は限定されており、大型貨物自動車等にいわゆる「死角」の存在することは周知の事実である。

このように、横断歩道は車両側に数々の要素を期待して設けられた施設であるが、運転者の過失等によりかかる期待が裏切られることもあり、その意味では、歩行者に完全な安全を保障する施設とは断じ得ないのである。

したがつて横断歩行者の生命・身体を「完全」に保護するためには、歩行者を車両から完全に分離するほかはないのであり、そのための施設が横断歩道橋あるいは地下歩道である。

一方、車両運転者の心理の常として、横断歩道橋が設置された場所であつて、更にその直下に横断歩道が残存している場合、徒らに歩行者の歩道橋利用を軽信し、とりわけ右・左折にあたつて充分な注意を払うことなく通行することが多く、横断歩道及びこれに設置された信号機を信頼して横断中の歩行者を撥ねる危険性が、歩道橋の無い場合に比して高くなる傾向があつた。また逆に横断歩行者の方にも横断歩道があると、わずかな労を惜しむ傾向も無くはなく、このため安全性の高い歩道橋の利用率を下げることともなつていた。したがつて原則としては、歩道橋を設置し、人・車を分離する以上、その設置に伴なつて、従来の横断歩道は廃止されなければならないものであつた。

以上詳述したところからも明らかな如く、歩道橋の設置は、従来存した車道上の横断歩道の廃止と密接な関連があり、「横断歩道廃止の合理性」は、「歩道橋設置の合理性」と分離してこれを考察することは、原則として、不可能であると言わなければならない。

国の作成にかかる「立体横断施設設置要領(案)」が、「立体横断施設の設置位置の決定」について、「設置位置にある既存の路上横断施設は廃止すること。」と定め、さらに、昭和四一年四月二一日警察庁丙交指発第一八号警察庁交通局長通達が、横断歩道橋の設置場所には原則として横断歩道の設置は行わないとしているのも、右の理をその基本的前提としているが故である。

よつて、以下には本件歩道橋等の設置とこれに伴なう横断歩道の廃止につき、一括してその合理性を述べることとする。

(2) 本件歩道橋等の設置と本件横断歩道廃止の合理性・正当性

ア 前述したとおり、当時の我国における極めて深刻な交通事情の下において、国による各種の交通安全対策のための補助金の交付、特別立法等がなされるに至り、いわゆる「交通戦争」下の歩行者保護の旗手として、横断歩道橋の設置要求が全国各地で高まるところとなつた。

右の如き状況の下にあつて、国は設置要領(案)をもつて横断歩道橋等立体横断施設の設置基準及び既設横断歩道との関連についての考え方を示すとともに、「横断歩道橋設計指針」を作成して、横断歩道橋の設計上の統一的仕様基準を定めるところとなつた。

このほか、道路交通法の一部を改正する法律(昭和四二年法律第一二六号)による「交通安全対策特別交付金」制度の発足、昭和四四年四月の交通安全施設等整備事業に関する特別措置法の一部を改正する法律(同年法律第九号)の施行等、歩道橋をはじめとする交通安全施設の整備事業のための財源の拡充等がはかられるようになつたのである。

かような経緯で全国に急速に普及・設置された横断歩道橋は、いわゆる立体横断施設によつて横断歩行者を車道から立体的に分離することにより横断歩行者の安全を恒久的に確保しようとするものであり我国において昭和五〇年三月末日現在七、九八四箇所(他に地下道一、二一〇箇所)、愛知県全体でも昭和五〇年三月末日現在七二四箇所(他に地下道八五箇所)設置され、俗に言われるところの「交通戦争」状態の中にあつて人命尊重という最大の目的に極めて現実的な効果をおさめて来たのである。

イ 本件交差点の概略は図面(一)記載のとおりであり、その道路の幅員は、東西が約三二・六メートル(歩道片側五・五メートル、車道片側一〇・八メートル)南北が約三三メートル(歩道片側五・五メートル、車道片側一一・〇メートル)であつた。

本件交差点は、環状線と田籾線が交差するいわゆる交通の要所であり、朝夕の通勤ラッシュ時はもとより、常時相当の車両が流れ、極めて事故発生の危険が高い交差点であつた。ちなみに昭和四三、昭和四六年及び昭和四九年当時の本件交差点付近の通過車両台数を示せば、別紙3のとおりである。ところで、本件交差点を通過する車両の傾向は、本件歩道橋等の設置当時から右・左折車の比率が極めて高く、例えば、昭和四九年九月一二日及び昭和五一年三月一八日の各調査によれば、その数量・比率は、それぞれ別紙4及び別紙5のとおりである。

このほか、昭和四三年及び昭和四四年当時における本件交差点の東西南北各一〇〇メートルの範囲の人身事故の状況は別紙6のとおりであり、本件交差点付近の他の横断歩道等の設置状況は、別紙8のとおりである。

ウ 以上の如く、本件交差点における具体的な交通状況は、昭和四四年時点においては、もはや道路標識信号機等の設置のみによつては、事故の防止が期待できないような状況であつた。

ところで、設置要領(案)では、「車道を横断する歩行者が多く、過去三年間に横断歩行者の死傷事故が五件以上発生した場所で、道路標識、信号機等の設置によつて事故の防止が期待できない場合には、立体横断施設を設けるものとする。」とされ、また「右折および左折交通量が多い信号交差点において右左折車による横断歩行者の事故が多発している場合」には、必要に応じて立体横断施設を設けるものとする、とされている。

これによれば、前記昭和四四年当時における本件交差点の交通状況は、すでに立体横断施設の設置が緊急に要請される段階にあつた。

そこで、被告市は、昭和四五年二月本件交差点に「ロ」の字形の本件歩道橋を設置したのである。なお、本件歩道橋の設計にあたつては、同じく国が定めた前記「横断歩道橋設計指針」がその基準とされている。

エ ところで、建設省が定めた設置要領(案)によれば、立体横断施設の設置位置にある既存の路上横断施設は廃止すること、とされていることは前述のとおりである。また、警察庁通達においても同様の考えが示されている。

そこで被告県公安委員会は、被告市による本件歩道橋の設置に伴い、右設置要領(案)及び右警察庁通達に基づき、昭和四五年四月二〇日本件交差点に設置されていた東・西及び北の三つの横断歩道を廃止し、その後昭和四九年三月三一日の市電停留所廃止に伴い残る南側の横断歩道を廃止したのである。

オ 本件歩道橋の設置等の経緯は、右に述べたとおりであるが、本件歩道橋の設置とこれに伴う横断歩道の廃止と乱横断抑止のための防護柵設置の結果、本件交差点における横断歩行者は車両の通行平面から完全に分離されたのである。したがつて、本件交差点においては、従来その危険の存した、車両等の信号無視、信号の変り目における信号残りあるいは車両の死角に入つての見落し等を原因とする歩行者の人身事故は、ほぼ根絶されたのである。のみならず、右の如き改善によつて、本件交差点付近の交通事故の発生件数は大幅に減少したのであり、その具体的数字は別紙6のとおりである。

また、本件歩道橋等の設置は、付近住民にも大いに歓迎され、本件交差点付近に存する愛知県立名古屋盲学校の生徒の通学の安全確保に大いに寄与したのであり、他の小、中、高校等の生徒の通学の安全をも確保したことはもとより当然のことであつた。

カ 以上詳述したところから明らかな如く、本件歩道橋の設置とこれに伴う本件横断歩道廃止は、必要かつやむを得ざる措置であり、その合理性には一点の疑念の余地もないのである。

(四) 本件横断禁止処分の正当性

本件横断禁止処分は、大規模規制の一つとして行われたものである。

大規模規制とは、名古屋市における交通事故の多発、交通渋滞の激化、各種交通公害による生活環境の悪化等の諸問題に対処するため、環状線規制、環状線内全面駐車禁止、生活ゾーン規制(ユニット・スクールゾーン)、バスレーン及び自転車ルートの設定、交通管制システムの運用などの諸施策を総合的に推進して、交通流の再配分と交通総量の削減を図り、都市全体として、より安全でより公害の少ない、かつ、より円滑な交通のパターンを実現することを目的として、被告県警察が昭和四七年一〇月から三箇年計画として推進したものである。

そして、被告県公安委員会は、大規模規制の一つとして、環状線の全区間の三二・六キロにつき、本件横断禁止処分をなしたのであるが、その効果は極めて顕著であつた。すなわち、環状線における交通事故発生件数の推移は、別紙9記載のとおりであつて、三箇年のうちに、事故件数が半減したのである。右事故のうち、人対車両事故の減少が本件横断禁止処分の直接の効果であることはいうまでもないが、自転車対車両及び車両相互の各事故の減少も、車両運転者が横断歩行者に注意を払う必要がなくなつたことが大きな原因となつているのであるから、これも本件横断禁止処分の効果と認めて差し支えないのである。また、本件横断禁止処分によつて、環状線における車両の流れが円滑化された(その詳細は、別紙10記載のとおりである。)ことが一因となつて、交通公害といわれる名古屋市内の大気汚染及び光化学スモッグ等も、別紙11及び同12記載のとおり、それぞれ大幅に減少しているのである。

このように、本件横断禁止処分を施策の一つとする大規模規制は、安全で公害の少ない円滑な交通のパターンを実現するという極めて公共性の強い施策であつて、その内容も合理的なものであり、現実にも、相当な効果を挙げて、住みよい社会の実現に寄与してきたのである。したがつて、国賠法一条一項の「違法性」について、どのような見解をとつたとしても、本件横断禁止処分が被告県に賠償責任を生ぜしめる違法行為に当たらないことは明白である。

(五) 横断歩道不設置の正当性

原告は、被告県公安委員会が本件交差点に横断歩道を設置しなかつたことは違法である、と主張している。

しかしながら、公務員の不作為が、これによつて被害を受けたという者に対する関係で違法と認められるためには、当該公務員がいわゆる被害者に対する具体的な法律上の作為義務を負つていることが必要である。

ところが本件においては、被告県公安委員会が原告に対して本件交差点に横断歩道を設置すべき法律上の義務を負つたものと認むべき法令上の根拠は全く存しないのである。したがつて、被告県公安委員会の横断歩道不設置をもつて直ちに違法であると解する原告の主張は明らかに誤りであり、被告県が右設置に関し賠償責任を負うことは、あり得ないところである。

仮に百歩を譲り、公務員が具体的な法律上の作為義務を負う場合のみではなく、不作為が著しく合理性を欠く場合にも、違法性を帯びることがある、という近時の学説に従つたとしても、原告の主張は不当である。

即ち、既に詳述したように、歩道橋の直下に横断歩道を設置することは極めて危険であり、国の作成にかかる設置要領(案)及び警察庁通達に、いずれも横断歩道橋の設置場所には原則として横断歩道の設置は行わない旨定め、これがその当時の国の方針でもあつたのである。したがつて、被告県公安委員会が本件交差点に横断歩道を設置しなかつたことは、誠に合理的であつて、これを著しく合理性を欠くものと認める余地は全くない。それゆえ、右不設置が違法となる余地も全くなく、被告県が、これによつて賠償責任を負うことは、あり得ないところである。

4  原告の主張に対する反論

右に述べたとおり、本件歩道橋の設置とこれに伴う本件横断歩道廃止の合理性は明らかであるが、原告はこれに対し種々非難している。以下に原告の主な主張について触れ、その失当であることを明らかにする。

(一) 原告は、原告の利益と直接結び付かない一般的な地域的状況ないし利便あるいは原告以外の者の利益の侵害なるものを主張している。しかしながら、不法行為法において違法性の判断の基礎として考慮されるべき事実は、当該不法行為を受けたとする者本人の直接的な利益侵害の有無に限られるべきであつて、これに直接結びつかない一般的・地域的利便に対する不都合は考慮の外にあるものといわなければならないから、原告の右主張は、すでにその点において失当である。

(二) 原告は、被告らの本件歩道橋等の設置等の一連の行為(対策)の「真の目的は交通事故対策ではなく、交通容量対策であつた。」と主張しているが、それが「道路における交通の円滑化」をも目的の一つとしていたという趣旨の主張であるならば極めて当然のことといわなければならない。しかしながら原告の右主張が、被告らの右一連の行為が「交通事故防止」を目的としているものではないとの趣旨であれば明らかに誤りである。

原告は、社団法人日本道路協会による設置要領(案)解説の一部分のみとらえて、横断歩道橋の設置の目的があたかも交通容量の増加ないし交通の円滑化のみにあつたかの如き印象を与えようとしている。

しかしながら、右「解説」の全文をみれば随所に「交通事故防止」を目的とするものであることが明らかである。

ところで、原告は立体横断施設である横断歩道橋設置の目的のなかに「交通容量対策」も(副次的にせよ)あることが非難されるべきであるとまで極論するのであろうか。

交通容量対策は、原告自身が認めている社会現象の一つとしての自動車の激増に対処するため、行政上不可避な問題の一つであるが、それは道路における交通の円滑化を確保し無用な混乱を除去することによつて結果的には再び「交通事故防止」という主目的につながつてゆくのである。

原告の主張する如く、仮に設置要領(案)解説中に交通容量対策を念頭においた記載があつたとしても、それはむしろ当然である。

(三) 原告は、本件交差点においては、自動車に対する事故防止対策をしなければならないのにこれが全くなされなかつた旨主張している。

しかしながら、いわば一番問題とすべき自動車に対する事故防止対策なるものは具体的にいかなるものであるかについて、原告は何ら述べていない。交通事故防止対策は、各行政機関の前に提示された緊急問題であつた。刻々と増加する交通量、それに伴なう人身事故の増大という「現実」の中で、最も有効かつ迅速になされ得る対策は何かがまず問題であり、その中で人車分離の思想が生れ、その実現方法の一つとして横断歩道橋の設置等がなされたのである。

すでに述べたような人身事故急増の時代以降現在までに、原告が対策として何をなすべきであつたというのか具体的に述べぬ限り、本件横断歩道橋の設置等の被告らの一連の行為を、「違法」呼ばわりしたり、「瑕疵」が存すると主張したりすることが許されないことは自明というべきである。

なお原告は、代替案なるもの三つを主張しているが、これらは当時必ずしも一般化しておらず、その安全性も確認されていなかつたのであり、また本件交差点の道路幅員の関係上も採用が困難であつたことは後述するとおりであつて、これらが原告のいう「対策」であるというのであれば、的外れも甚だしい。

(四) 原告は横断歩道橋付近において事故が減少した事実を認めてはいるが、その理由については、牽強付会と評するほかはない主張をしている。しかし、原告も自認する横断歩道橋付近の事故減少は、横断歩道橋の設置及びこれに伴うその後の諸施策そのものの本来的効用から出た成果以外の何ものでもないのである。

原告は、横断歩道橋の設置等による人対自動車の交通事故減少を「若干」と評している。

しかしながら、昭和四三、四四年の二年間の本件交差点内における人・自転車対自動車の事故件数は合計一二件であつたものが、歩道橋設置後の昭和四五、四六年の二年間でわずか二件に「激減」しているのである。原告は一〇件という多くの受傷者の減少を、とるに足りない効果であるというのであろうか。

ちなみに同じ期間の本件交差点内における自動車対自動車の事故も三四件対二四件と一〇件も減少しているのである。

(五) 原告は横断歩道橋の設置によつて命を賭して交差点を横断する者が増え、事故の重大性が増大する等と主張している。

しかしながら、これもまた極めて観念的で根拠のない憶測と評するほかはない。

仮に原告の主張するように、命を賭してまで自動車の疾走する交差点を急ぎ渡ろうとして事故にあつた者がいたとしても、そのような者は自ら不適切な判断によつて事故を招いた者であり、そのような者を標準として横断歩道橋設置の是非が論ぜられるいわれがないこともまた自明である。

(六) 原告は又、自転車は横断歩道橋を渡ることは不可能であるとの主張をなす。しかしながら、自転車は道路交通法上、もともと車道を走行すべきものとされているのであり(同法一七条、二条一項八および一一号)、歩道の一定部分の走行が許されるのは、例外的な場合にすぎないのである。また自転車の場合、本来当然通行すべき交差点での横断が危険と考えるのならば、最寄りの横断歩道へ迂回することも歩行者の場合と異なり、極めて容易である。したがつて、横断歩道橋の構造上自転車の通行が不可能であるとしても、社会生活上受忍し得ない程の不利不便を自転車の利用者に与えるものとは考えられない。

原告は横断歩道橋の設置してある交差点で横断歩道もない所では、自動車運転者は急発進して左折するため歩行者より速度が早い自転車が危険にさらされるともいう。しかしながら、右主張もまた憶測の領域を越えないものといわなければならない。否、そのような交差点においては、自動車運転者は路上の横断者に注意を払う必要はなくなるのであるから、その分だけ注意を払うべき領域(これは運転経験のある者ならば、誰でもかなり大きな領域であることに思い当るはずである。)が減少するのであり、かえつて横断歩道のある個所よりもより多くの注意を左方に集中することができ、安全性が増大すると言つても過言ではないのである。

(七) 原告は、本件交差点を中心にして地域の生活圏が形成されて来たかの如く主張しているが、少くとも本件交差点の東・西については、歴史的にみても性格的にみても往来の多い生活圏であるとは到底言い得ないのである(更にいうならば原告がその主張の前提をなす「交差点を中心とした生活圏の形成」なる発想も、特定の個所については格別、これを一般的に根拠付ける何ものも存しないのである)。

仮に原告の主張するとおり、本件交差点が従来より、往来頻繁な交差点であつたとしたならば、そのこと自体が、本件交差点における本件横断歩道橋等の設置及びその後の諸施策の必要性及び合理性を裏付けているものといわなければならない。

(八) 原告は、被告らの本件各行為により原告以外の者に利益侵害が発生したとして、住民調査の結果を引用している。

しかしながら、右住民調査は、いわゆるアンケート調査の客観性を保つために必要とされる科学的な手法によらず、極く初歩的でかつ基本的な配慮に欠けているばかりか、逆に極めて、誘導的で調査者の主観を押し付ける恣意的なものであり、これによつて得られた結果は、全く科学性に欠け、何らかの客観的結論を推認する資料とは到底なり得ないのである。したがつて、右住民調査を根拠に、原告以外の者に利益侵害等が発生しているとする原告の主張は、これを裏付けるに足りる証拠に欠け、全く合理性を有しないのである。

(九) 代替案の不採用の主張について

(1) 原告は、本件歩道橋等に代り同様の横断歩行者の事故防止効果を達成できる代替案が存したとし、被告らがこれを採用しなかつたことを非難している。

しかして、原告の主張する代替案とは、①右左折可の信号(いわゆる矢印信号)と歩行者専用信号との組合せ方式、②スクランブル方式及び③セパレート方式の三つである。しかしながら、これらは以下に述べるとおり、原告の主張するような効果を期し難いか、本件交差点に採用が不可能であるかないしは、本件歩道橋設置当時一般化していなかつたものばかりであり、その意味において原告の右主張もまた、被告県の前記各行為の正当性を覆し得る余地はない。

(2) 原告主張の代替案の①について

原告の主張するこの案の内容は必ずしも明確ではないが、通常青、黄、赤の信号現示のほかに自動車専用の右・左折可の矢印信号を加え、それらを直進(青)の前後に点灯し、他方歩行者専用の信号を別に設け、自動車専用の左・右折の矢印信号点灯時には歩行者信号は赤とするというもののようである。

しかしながら、このような方式の場合でも、左・右折の自動車は直進(青)の場合にも可能な限り左右折をなし得るはずである(右折車は、反対車線に直進車がなければ右折し得るし、左折車に至つては青信号のときは常に左折できる。)。とすれば、この方式では原告の主張するような「横断歩行者と右左折車とが交差しない」方式とはなり得ないことは明白である。けだし、右の方式では自動車専用の直進(青)の信号現示の時点では、歩行者専用の信号も青となつているはずであるから(そうでなければ、この方式とスクランブルやセパレート方式との間に差はなくなる)、この時点で右・左折して来る自動車と歩行者は必ず交差してしまうことになるからである。

したがつて、この方式では、横断歩道橋で実現し得ると同等の人車分離の効果は到底達成し得ないのであり、むしろ一番危険な左・右折時の人身事故の根絶は期し難いのであるから、有効な代替案とはなし得ないことは明白である。

(3) 原告主張の代替案の②、③について

原告は、代替案としてスクランブル方式又はセパレート方式を主張する。なるほど被告県公安委員会は、本件歩道橋の設置に伴い、昭和四五年四月、本件交差点の三本の横断歩道を廃止した際スクランブル方式又はセパレート信号によつて、歩行者と車輛を分離することは検討しなかつた。これは、その当時、これらのシステムが、わが国において採用されていなかつたからである。

ちなみに、スクランブル方式による信号は、アメリカで考案されたものであり、わが国では、昭和四六年四月五日、東京都世田谷区八幡山小学校前外四か所で初めて設置されたものである。またセパレート信号は、愛知県警の考案にかかるものであり、昭和四七年九月一四日名古屋市役所北交差点に設置されたのが最初である。

のみならず、スクランブル方式は車輛の通行量が少なく、反面横断歩行者が極めて多い繁華街、通学路等に採用される方式であり、本件交差点のように歩行者が少なく、かつ車輛通行量が膨大な交差点においてこれを採用すれば、収拾のつかない交通渋滞を招き、車輛が生活道路へ進入する等他の弊害も無視できないため到底採用し得なかつたのである。現に被告県公安委員会は昭和四九年末頃地元の要望を受けて右方式の採用を検討したが不可能との判断を下しているのである。またセパレート方式も本件交差点のように自動車交通量の多い交差点でこれを実現するには、最低片側四ないし五車線の幅員が必要であるところ、本件交差点は片側三車線であつたから、採用の余地がなかつたのである。なお、前記昭和四九年末頃の地元の要望時に、右公安委員会はこの方式をも検討しているが、右同様の結論に達しているのである。

したがつて、これらの方式は有効な代替案とはなり得ないのである。

以上述べたところから明らかな如く、原告の主張の代替案なるものは、いずれも本件歩道橋に代わるほどの効果をあげ得ないか、採用が不可能ないし著しく不適当なものであり、かつ本件歩道橋当時一般化していたものでもなかつたのであるから、これを検討ないし採用しなかつたことによつて、被告県の前記行為の正当性が否定される余地はなく、原告の主張は理由がない。

(一〇) 本件歩道橋設置等の影響評価の欠如の主張について

(1) 原告は、本件歩道橋の設置等の影響評価は著しく不十分であつたと主張している。本件歩道橋設置等にあたつて、原告主張の如き影響評価を必ず行わなければならないとする原告の主張は、少なくとも当時の緊急を要する交通事情の下においては、独自の見解というほかはなく、当時そのような見解が一般論にしろ流布していた事実もないのである(要するに、原告の右主張は現時点における価値基準に立脚した結果論にすぎないのみならず、現時点においてさえも、環境影響評価の事前実施を歩道橋設置等の適法要件とする法解釈が確立されているわけではないから、原告の右主張は一顧の価値もないことが明らかである。)。

(2) 原告はまた、本件横断歩道橋等の設置等の行政施策を決定するに際しては、地域住民に対し原告らの主張するような資料を公開の上その賛否を聴取する、即ち事前の告知、聴聞、放棄(住民参加の手続)が必要であると主張している。

しかして、原告の右主張は、原告ら地域住民は「通行権」を有しているとの主張をその理論的前提としている。しかしながら、「通行権」なるものが如何なる意味においても法律上の権利として認め得ないものであることはすでに明らかにしたとおりであるから、原告の右主張はまずその前提部分において失当といわなければならない。

(3) 仮に右の前提欠除をしばらく措くとしても、道路交通法上交通規制等をなす場合の事前手続として法定されているものとしてはわずかに同法一一〇条の二の場合が見当たるのみであり(換言すれば右規定に該当する場合以外は、事前手続について格別の要件は定められていないのであり)、地域住民につき事前の告知・聴聞・放棄等の手続なるものをなさなければ違法となるなどということはあり得ないのである。

(4) 原告は、被告らが「代案」の作成を全く行わなかつたとも主張しているが、そもそも本件交差点につき横断歩道橋が設置される等の時期にあつては、それらはいずれもその当時として実行可能な最善の方法であつたのであり、代案が出て来る余地は全く存しなかつたことは、前述したとおりである。

(5) 以上述べたところから、明らかな如く、本件歩道橋の設置等の影響評価が不十分であるとか、住民参加の手続がなされていなかつたとする原告の主張は、それ自体無意味なものであり、被告県の前記各行為の正当性を覆し得る余地のないことは多言を要しないところである。

(一一) 原告は、最近になつて横断歩道橋の直下等に横断歩道が復活されたり、横断歩道橋が廃止されたことのあることからみて、本件交差点に横断歩道橋を設置したこと等の誤りが事実によつて具体化されたなどと主張している。

しかしながら、本件歩道橋の設置等の被告らの行為は、前述したような当時の「交通戦争」とも呼ばれた異常な交通事情の下で、極めて緊急を要する施策としてなされた最善の方法であつたものである(当時の新聞記事によつても、如何に当時歩道橋を設置し人車を分離することが社会的にも要望されていたかが明らかである)。一方、原告の主張する横断歩道橋下の横断歩道の設置や横断歩道橋の廃止は、あくまでも例外的措置であり、決して従前の原則が誤りとして全面的に改められたものではないのである。むしろ、従前の緊急を要する交通事情の下では、とりあえず、学童等を含めた大多数の歩行者の通行の安全を最大公約数的な形で確保することが要請され、これに基づいてとられたのが歩道橋の設置等の対策であり、原告主張の如き近時の例外的な措置は、交通事情の一応の安定化を背景に、近時になつて急速に台頭した身体障害者等弱者保護という社会一般の要請(例えば、名古屋地方裁判所でも旧庁舎当時はこのような配慮は全くされておらず、昭和五四年の新庁舎完成時にようやく、北側玄関のスロープや自動ドアあるいは身体障害者用トイレが設けられたにすぎない。)から行われているものである。

したがつて仮に最近になつて横断歩道橋の下等に横断歩道が設置されたり、横断歩道橋が廃止されたとしても、右の如き交通事情や社会一般の意識の改革等の歴史的経過ないし背景を無視することは妥当ではなく、これをもつて本件横断歩道橋の設置等の行為が誤りであつた証左の如く言う原告の主張は牽強付会も甚しいのである。

(一二) 又、原告の右主張事実が肯認されるとしても、これを論拠として被告県の行為を違法と評価することは、明らかに誤りであり、その理由は、次のとおりである。即ち国賠法一条における違法性の有無を判断する理論としては、職務行為基準説をもつて正当とすべきである(最判昭和五三年一〇月二〇日民集三二巻七号一三六七頁)が職務行為基準説に従う限り、原告が被告県の違法行為として主張する各行為が、その行為時における客観的情勢からみて、いずれも極めて合理的であるとともに必要かつ妥当なものであつたことは既述のとおりであるから、被侵害利益の種類・程度との相関関係を念頭に置いて評価しても、これを違法視し得ないことは極めて明らかであり、最近になつて横断歩道橋周辺に横断歩道が併設された事実があるとしても、こうした事実が被告県の行為を違法と解する論拠となり得ないことは自明の理である。

ちなみに、最近になつて横断歩道の復活が求められてきたのは、次のような情勢の変化によるものである。すなわち、本件歩道橋が設置された当時は、いわゆる交通戦争のピーク時であり、交通事故とくに人身事故は毎年増加の一途をたどつていたので、交通事故による死傷者の減少が国民的悲願となつていたのであり、そのため、人車分離を目的とする交通安全施設の整備等が強く叫ばれ、その一環として、横断歩道橋の設置、その直下の横断歩道の廃止と不設置及び横断禁止等の諸施策が採択されたものである。そして、これらの諸施策がその後相当の効果を挙げ、交通事故件数と交通事故による死傷者数が顕著に減少してきたので、かつては交通事故を避けるための最善の手段として、少しも問題とされていなかつた歩道橋昇降時の負担についても、次第にこれを苦痛と評価するようになり、さらに、既に述べたように身体障害者等の弱者保護という社会一般の要請が近時急速に台頭してきたのでこれら社会諸情勢の変化に伴つて横断歩道の併設が求められることとなつたのである。

(一三) 原告は、被告らが本件各道路につきなした大規模規制によつて、本件交差点の通過交通量が増大したかの如く主張しているが、本末転倒も甚だしい。前述したとおり本件交差点を通過する各道路を含め、交通事故の多発、交通渋滞の激化、各種の交通公害による生活環境の悪化等の問題が発生しているためになされたのが大規模規制なのであり、同規制は所期の目的を充分に遂げているのである。

(一四) なお、被告県公安委員会は、大規模規制実施にあたりまず県下各大学の教授等の学識経験者により構成される交通管理研究委員会に諮問するとともに、国、県、市等の関係者より構成される交通安全に関する各種の対策会議等及び愛知県議会、名古屋市議会並びに関係各団体に対し説明をなし、他にマスコミに対してもその内容を発表し報道せしめている。

のみならず、右大規模規制にあたつては、必要に応じ、各種規制の内容について各学区・町内会役員等に対する説明、地域住民に対するパンフレット配布、広報看板の設置等により周知をはかり、合せて必要な範囲において地域の要望をも聴取しているのである。

5  結 語

上記詳述したように、本件歩道橋の設置とこれに伴う本件横断歩道の廃止は、近時の「交通戦争」下において無力な一般の横断歩行者に最も効果的かつ現実的な防衛手段を与えるためになされた極めて合理的な必要かつやむを得ない措置であつて、高度の公共性を有するものである。本件横断禁止処分を施策の一つとする大規模総合規制は、安全で公害の少ない円滑な交通のパターンを実現することを目的とするものであつて、その内容も合理的なものであり、極めて、公共性の強い施策である。さらに、横断歩道橋直下に横断歩道を設置することは極めて危険であるから、被告県公安委員会が本件交差点に横断歩道を設置しなかつたことも誠に合理的である。そして、これらの行為がいずれも相当な効果を挙げてきたことも、既に詳述したとおりであるから、これらの行為を違法な措置と評価する余地は全く存しないことが明らかである。

(被 告 国)

1  相被告ら主張のとおり本件の交通安全施設等整備事業(県公安委員会の権限行使、道路管理者の横断歩道橋の設置等。交通安全事業法二条)が正当なものである以上、被告国の「通知」行為は、原告主張の責任を発生させるものではない。

2  又、被告市・被告県の本件交通安全施設等整備事業は、市又は県公安委員会が、その固有の地位で交通安全事業法、道路法、道路交通法等に基づいて行なうものであつて、国は市・県と「共同ノ」行為(民法七一九条一項)をしたわけでもないので、被告国が右通知をしたとしても、それは原告主張のごとき責任を生ぜさせるものではない。

3  更に、被告国の通知にかかる内容は、いずれも、正当なものであるので、そもそも責任が生ずるいわれがない。

第三  証  拠〈省略〉

理由

一1当事者間に争いのない事実は次のとおりである。なお括弧内の被告名は原告と当該被告との間で争いのないことを示す。

(一)  原告が田籾線と環状線の交差する本件交差点の西北部に位置する肩書地に昭和四四年以前より居住していること(被告市)

(二)  被告市が田籾線・環状線の道路管理者であり、被告県公安委員会が右各道路につき交通規制権限を有すること(全被告)

(三)  警察庁交通局長が昭和四一年四月二一日、被告県警察本部長に対し警察庁通達を通知したこと(被告県・被告国)

(四)  建設省道路局長が昭和四二年四月二七日、設置要領(案)を被告県知事、被告市長に対して通知したこと(全被告、但し、被告市は被告市長に対する通知についてのみ争わない。)

(五)  設置要領(案)のなかに請求原因2(三)記載の規定があること(被告県・被告国)

(六)  設置要領(案)解説のなかに請求原因2(四)記載の説明があること(被告国)

(七)  被告市が本件歩道橋等の設置を、被告県が本件横断歩道廃止をなしたこと(全被告)

(八)  被告県が本件横断禁止処分をなしたこと(被告市・被告県)

(九)  被告市が昭和四八年、本件交差点付近の田籾線の中央分離帯上に本件中央防護柵を設置したこと(被告市)

(一〇)  被告県が昭和四九年本件交差点の南側の横断歩道を廃止したこと(被告市・被告県)

(一一)  被告市が昭和四九年(月日については争いあり)、本件中央防護柵の設置をなしたこと(被告市・被告県)

(一二)  被告県が本件交差点に横断歩道を再び設置しなかつたこと(被告県)

(一三)  大規模規制の構想・基本理念・環状線規制の内容が請求原因8(三)(1)、(3)記載のとおりであり、本件横断禁止処分及び本件中央防護柵の設置が環状線規制の一環としてなされたこと(被告県)

2被告県は請求原因2(四)(設置要領(案)解説の内容の一部)の事実及び同2(七)(本件交差点を基点として路上横断できない距離)の事実については明らかに争わないので自白したものとみなす。

二  被告市及び被告県の責任

原告は、被告市が田籾線・環状線の道路管理者として本件歩道橋等の設置、本件中央防護柵の設置をしたことによる道路管理の瑕疵とこれと関連共同する被告県公安委員会が右各道路の交通規制権限に基づいてなした本件横断歩道廃止、本件横断禁止処分及び本件交差点に横断歩道を再設置しなかつた不作為の各違法な行為により原告の通行権を侵害し、損害を与えた旨主張するので、以下これを検討する。

1被告市の右道路の管理及び被告県公安委員会の右作為、不作為が原告に対する関係において違法な権利侵害ないし法益侵害となるかどうかを判断するにあたつては、被侵害利益の性質と内容、侵害行為の態様と侵害の程度、侵害行為のもつ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等を比較検討して決すべきものである。

2原告の被侵害利益

原告は、被告市の道路管理の瑕疵・被告県の行為の違法性を判断するにあたつて考慮すべき原告の被侵害利益として通行権、健康、就業の利益を主張する。

しかし、右侵害利益のうち、健康就業の利益については、原告の主張によつても、通行権が侵害され、通勤に際し迂回通行を余儀なくされた結果生じた肉体的負担の増加に起因するものであつて本件被告らの侵害の態様からしてそれらに対する直接的な侵害は起り得ないという意味で通行権侵害から派生した二次的侵害ということができる。このような二次的な侵害による損害については、第一次侵害による損害につき不法行為責任が成立した場合に、行為との間の相当因果関係の有無の問題として検討されるべきであつて、責任要件を基礎づける判断要素として考慮する必要はないというべきである。

原告は、歩行者には表面状況に変化のない道路(勾配等の自然的条件により表面状況に変化がある場合は除く。)を通行するという権利(通行権)があり、右通行権は憲法一三条、二二条により保障された権利であると主張する。

なるほど、道は人の歩行に由来し、歩行は人の社会生活上・精神生活上重要な意義を有するものであることは原告が主張するとおりであり、又身体障害者の歩行が実質的に確保されるべきであるという主張も首肯し得るものであるが、原告の主張する通行権なるものは実定法上の根拠を欠き、憲法一三条、二二条が右通行権を保障していると解することはできないというほかはない。

しかし、原告が通勤のために本件交差点の北側を路上横断するという利益が法的に保護に値する利益であるか否かにつきさらに検討する必要がある。

一般に国民の公道の利用関係、特にその自由使用については行政庁による公道設置・管理の結果としてこれを享受するものであつて利用者に対し公道の使用権が設定されているものではないと解されるが、公道利用が人の社会生活にとつて重要な意味を持つ場合があることを考えると、およそ公道利用の利益につき不法行為法の保護の対象となることを否定すべきではなく、個別・具体的事情のもとで公道利用が人の社会・経済生活上必要かつ重要であるような場合には法的に保護に値する利益として不法行為法による保護の対象たり得ると解すべきである。

これを本件についてみると、〈証拠〉によれば、原告は、昭和二七年九月業務中受けた股関節の傷害の後遺症である後外傷性両側股関節強直症等の障害のため右足は二・五センチメートル、左足は三・八ないし五・八センチメートル程度しか挙上できず、階段の昇降に多大の困難があること、原告は通勤のため古出来町(南行)バス停留所に行くなど環状線を横断する必要があるときは本件交差点北横断歩道を渡つて横断していたこと、しかし本件歩道橋が設置され、本件横断歩道が廃止されたため、やむなく片手に手すり、片手に杖を持ち、身体を持上げて一段一段昇降するという多大の労力を要する方法により本件歩道橋を渡つていたこと、暫くして昇段途中後方から駆上つてきた学生の鞄が身体に当たり前に転倒するという事故にあつたため原告は本件歩道橋の利用を取止め、赤信号で車両の通行が途絶えたところを見はからつて環状線を徒歩で横断する方法をとつていたこと、本件横断禁止処分及び本件中央防護柵の設置により法律上も事実上も右のような横断をすることもできなくなつたことが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

右事実によれば、原告にとつて本件交差点北側の路上横断の利益は通勤のために必要であり、その利益は原告の社会生活上一応重要であるということができる。しかし、一方で原告は路上横断ができなくても迂回通行することにより通勤することが可能である旨を主張しており、右主張によれば原告にとつて本件交差点北側を路上横断することは通勤に際しより時間的損失・肉体的負担が少ない方法ということにとどまり、必ずしも原告の社会生活上必要不可欠な利益であるとまではいえない。

3本件歩道橋等の設置及び本件横断歩道廃止等に至る経緯とその必要性

一の当事者間に争いのない事実に、〈証拠〉を総合すれば次の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

(一)  本件歩道橋等の設置状況

別紙図面(二)のとおり、本件歩道橋は田籾線と環状線の交差する本件交差点上に「ロ」の字形に、本件ガードフェンスは本件交差点の四隅の歩道と車道の境にそれぞれ設置されている。本件交差点付近において田籾線の幅員は三二・六メートル(歩道片側五・五メートル、車道片側一〇・八メートル)、環状線の幅員は三三メートル(歩道片側五・五メートル、車道片側一一メートル)で、それぞれ片側三車線の平坦な道路であり、その中央には中央防護柵が別紙図面(二)、(三)のとおり設置されている。(なお、本件歩道橋等の設置のなされる以前の本件交差点の状況は別紙図面(一)のとおりである。)

田籾線及び環状線上の信号機及び横断歩道の昭和五〇年三月頃までの設置状況は別紙8のとおりである。

(二)  本件交差点付近の地域の状況

本件交差点は名古屋市の中心部の東北にあり、東区と千種区の区境に位置している。本件交差点付近は工場やビルのほとんどない住宅街を形成し、昭和四五年度の国勢調査によれば、本件交差点がある古出来町三丁目の属する旭丘学区の人口密度は一平方キロメートル当たり約一万二五五五人、同町四丁目の属する大和学区の人口密度は一万六五二〇人であり、名古屋市でも最も人口密度の高い地域の一つであつた。

本件歩道橋が設置された昭和四五年当時、環状線には市電が走り(昭和四九年三月廃止)、本件交差点のすぐ南側の道路中央部に市電の停留所が設置されていたほか、多数のバス路線が本件交差点を経由し、本件交差点付近には別紙図面(三)の位置に、南行・北行の市バス古出来町停留所が設置され、通勤・通学のため本件交差点を横断して右停留所を利用する附近住民が多かつた。

また、本件交差点の近くには北西に県立旭ケ丘高等学校、東南に市邨学園、振甫中学、県立名古屋盲学校(以下盲学校という。)があり、通学時間帯にはこれらの学校の生徒が横断歩道を利用して本件交差点を横断していた。

(三)  本件交差点における交通量

昭和四三年、昭和四六年、昭和四九年の全国道路交通情勢調査によれば、本件交差点付近の午前七時から午後七時までの一二時間の通過車両(二輪車は除く。)台数は別紙3のとおりであり、昭和四〇年代の初めから半ばにかけて増大する傾向にあつた。

また、本件交差点を通過する車両の傾向として本件歩道橋等の設置当時から右左折車の比率が通常の交差点における比率(約二〇パーセント)に比して若干高く、昭和四九年九月一二日及び昭和五一年三月一八日における被告県警察による本件交差点交通量の調査によればその数量・比率は別紙4、5のとおりであつた。

(四)  本件交差点付近における交通事故の状況

昭和四三年から昭和四九年までの本件交差点内及び本件交差点から一〇〇メートル以内の環状線・田籾線において発生した交通事故(人身事故)の発生状況は別紙6のとおりであり、右期間内において本件交差点内において発生した歩行者対自動車の人身事故の発生状況は別紙7のとおりである。

なお、右期間内の本件交差点内における自動車対自動車の事故の態様は直進車と右左折車の衝突事故、追突事故その他である。

(五)  国の安全施設等整備事業

(1) 全国における交通事故の件数は昭和三〇年代一〇年間に六・〇倍、死傷者数は五・三倍に増加し、昭和四〇年には死者一万二五〇〇人、負傷者四二万五〇〇〇人にのぼり、大きな社会問題となるに至つた。

国はこれに対応して交通事故防止対策として交通安全施設等の整備・拡充を推進することとし、「交通安全施設等整備事業に関する緊急措置法」(以下交通安全事業法という。)を制定し(昭和四一年四月一日に公布・施行)、同法に基づき昭和四一年七月一五日、交通安全施設等整備三箇年計画を決定した(昭和四二年一二月一日、右計画は拡大変更された。)。

右計画の実施により、交通安全施設は大幅に整備されつつあつたが、その後の自動車交通量の急増により交通事故の発生はなお増加傾向をたどつていたため、国は昭和四三年度までの措置に引き続き、昭和四四年度以降の三ケ年間においても現に交通事故が多発している道路その他緊急に交通の安全を確保する必要のある道路について地方単独事業(国の負担又は補助を受けないで費用の全額を地方が負担して行なう事業)を含めた総合的な計画のもとに交通安全施設等の整備事業を実施することとし、昭和四四年三月三一日交通安全事業法を改正した。

この法改正で、都道府県公安委員会及び道路管理者は協議により一定の基準に従い緊急に交通の安全を確保する必要があると認められる道路について、昭和四四年以降の三ケ年において実施すべき交通安全施設等整備事業に関する計画の案を作成して国家公安委員会及び建設大臣に提出しなければならないものとされた。

なお、右計画の案の作成に先立ち、昭和四四年四月一八日国家公安委員会・建設省告示第一号によつて右計画の案を作成すべき道路の区間の基準が示されたが、本件交差点付近の環状線・田籾線は当時の通過交通量その他の事情からみて右基準に該当する道路の区間であつたことは明らかである。

国は昭和四四年一二月二日、改正後の交通安全事業法に基づき、特定交通安全施設等整備事業三箇年計画を決定したが、右計画においては、横断歩行者の交通事故が多発するおそれが大きいと認められる道路には横断歩道橋等を整備し、児童及び幼児の交通事故が発生するおそれが大きいと認められる通学路には横断歩道橋等を整備するものとされた。

(2) 戦後一貫して増加してきた交通事故は、事故件数において昭和四四年を、死傷者数において昭和四五年をピークとして以後逐年減少傾向をたどつているが、このことは交通取締の強化、運転者対策の充実、交通安全教育の充実、交通安全施設等の整備など各種施策の総合的な成果と考えられている。

(六)  設置要領(案)及び警察庁通達

横断歩道橋は昭和三四年に我国で初めて設置され、それ以降、設置場所は急速に増加し、昭和四〇年頃には全国で年間約一〇〇〇ケ所にも及ぶようになつた。このように多数の横断歩道橋が設置され、又将来にわたつても引き続き設置されることが予想されたので、日本道路協会は横断歩道橋委員会において昭和四〇年三月、児童から老人に至るまで苦労なしに常時活用できるよう階段の寸法・幅員等まで細かく考慮した横断歩道橋設計指針案を作成し、ついで同年八月、立体横断施設分科会を発足させ、同分科会において横断歩道橋の設置の適正を期することを目的として横断歩道橋に関する設置基準、位置場所の選定、維持管理等についての合理的根拠ないし統一的指針を検討させることとした。同分科会は昭和四二年三月、設置要領(案)を作成し、建設省道路局長に答申し、同局長はこれを受けて、同年四月二七日、設置要領(案)を被告市長、被告県知事を含む全国の道路管理者、関係機関に通知した。(昭和四二年建設省道企発第一七号)

設置要領(案)2―2(設置位置の決定)のなかには次の規定がある。

「立体横断施設の設置位置は下記の各号に留意のうえ、決定しなければならない。

(1) 設置位置にある既存の路上横断施設は廃止すること。

(2) 隣接横断歩道までの距離は立体横断施設の利用度の低下をきたさぬよう、適当な間隔とすること。」

又、警察庁交通局長は交通規制実施の統一的基準として警察庁通達を作成し、昭和四一年四月二一日、これを被告県を含む各都道府県警察本部長に対し通知した。

警察庁通達の第七章第二3には横断歩道橋が設置された場所にある既存の横断歩道についてはこれを廃止すべき旨が規定されている。

(七)  本件歩道橋等の設置及び本件横断歩道廃止の経緯

(1) 本件歩道橋等の設置の経緯

前記のとおり本件交差点付近の環状線・田籾線は被告市において改正後の交通安全事業法に基づき交通安全施設等整備事業の計画の案を作成すべき道路の区間に該当していたところ、被告市東土木事務所長及び横断歩道橋等の設置に関し起案を担当していた被告市土木局技術部道路補修課安全施設係長安西和夫(以下安西という。)は、昭和四四年四月から七月にかけて本件交差点を所轄する東警察署の交通課長森甚吉(以下森という。)と本件歩道橋等の設置に関し協議を重ね、同人から当時の本件交差点付近の事故類型図をもとに本件交差点内で事故が多発している状況、特に右左折車が多く横断歩道上での歩行者との衝突事故が多いこと、田籾線・環状線とも交通量が多く、田籾線は東名高速道路開通後交通量が増えたこと、本件交差点の横断歩行者の中には盲学校の生徒がいることなどの説明を受け、本件交差点が横断歩道橋の設置場所の基準を定めた設置要領(案)二―一―四(信号交差点に設置する立体横断施設)の四号の「右折および左折交通量が多い交差点において右左折車による横断歩行者の事故が多発している場合。」に該当するものであり、かつ横断歩道橋設置の必要性があると判断し、本件歩道橋の設置を立案したものである。

歩道橋の形状については安西は森との協議の上、環状線と田籾線の双方に交通量が多いこと、右左折車が多いことを理由として「ロ」の字形とすることとした。

又、安西は設置要領(案)解説(弁論の全趣旨によれば、安西は職務上右解説の内容を知つていたものと認めることができる。)の設置要領(案)2―2(設置位置の決定)に関する説明のなかに「立体横断施設のある箇所、特に信号機のある箇所では路面上の歩行者の横断も一応可能であり、これを廃止しない限り路面の自動車交通の円滑化はあまり効果が期待できない。一方歩行者側は路面上も横断可能なため、時間と労力を必要とする立体横断施設の利用は極めて低くなることが予想されるので、これらの施設を取除きガードフェンス等により物理的に路上横断を抑制するものとする。」という部分があることから、これに従い、本件歩道橋に併せて歩行者の路上横断を抑制するため、本件ガードフェンスを設置することを立案した。

被告市は安西による本件歩道橋等の設置の立案を受けて、昭和四四年八月四日、改正後の交通安全事業法四条に基づく名古屋市の第二次交通安全施設等整備事業三箇年計画の中において、本件歩道橋等の設置を被告市の単独事業(改正後の交通安全事業法九条二項)として行なうことを正式に決定し、右計画に基づき、昭和四五年二月七日、本件歩道橋等の設置をなした。被告市は右設置にあたつては前記設計指針案を参考にしたうえ、特に階段部分に手すりを設けるなどの配慮をした。

なお本件歩道橋については、当時の他の地域と同様、盲学校関係者その他付近住民等から設置を望む強い要望陳情が出されていた。

(2) 本件横断歩道廃止の経緯

被告県公安委員会は昭和四五年四月二〇日、前記のとおり、設置要領(案)及び警察庁通達の中に横断歩道橋設置位置にある既存の路上横断施設を廃止すべき旨の規定があることに基づき、本件交差点に設置されていた横断歩道のうち東側・西側・及び北側の三つにつきこれを廃止し、その後昭和四九年三月三一日の市電停留所廃止に伴い残る南側の横断歩道を廃止した。

(八)  本件横断禁止処分及び本件中央防護柵の設置の経緯

(1) 大規模規制及びその一環としての環状線規制

大規模規制とは、名古屋市における交通事故の多発、交通渋滞の激化、各種交通公害による生活環境の悪化等の諸問題に対処するため、環状線規制、環状線内全面駐車禁止、生活ゾーン規制(ユニット・スクールゾーン)、バスレーン及び自転車ルートの設定、交通管制システムの運用などの諸施策を総合的に推進して、交通流の再配分と交通総量の削減を図り、都市全体として、安全で公害の少ない、円滑な交通のパターンを実現することを目的として被告県警察が昭和四七年一〇月から三ケ年計画として推進したものである。

大規模規制は①地域の特性に応じた道路の適正利用をはかるため交通流を再配分すること(交通流の再配分)、②自動車の利用を抑制し管理すること(交通需要の管理)の二つの基本理念に基づき立案されているが、そのうち交通流の再配分の理念に基づき立てられた構想とは、名古屋市において地域交通と都市中心部を通る通過交通とが混在し、それが市内で交通事故が多発している原因の一つとなつていること等の状況に鑑み名古屋市内の道路をその形状と利用状況に応じて規制を加え、通過交通用道路、地域交通用道路、生活交通用道路として位置づけることにより、通過交通と地域交通とを分離し、交通流の安定を図るというものである。

そして具体的な規制としては、環状線内部の地域の生活環境を保全するため、生活ゾーン規制(ユニット・スクールゾーン)を、市民の経済活動を保護するため経済圏規制(ショッピングゾーン、盛り場ゾーン)を行ない、右規制の結果地域生活圏から締め出され、環状線内の主要幹線道路(国道五路線、地方道四路線)に流入することになる地域交通を誘導標識によつて目的地に誘導し、一方右規制及び地域交通の幹線道路流入の結果名古屋市内中心部を通りにくくなる通過交通を地域交通と分離して環状線上に誘導分散させるため、環状線を通過用交通路としてその規制・施設の整備を図る(環状線規制)というものである。

環状線規制によれば、名古屋市内の主要幹線道路から誘導された通過交通が環状線上を円滑に走行できるようにするため被告県公安委員会において、①環状線の制限速度を五〇キロメートル毎時とする、②アクセスコントロールとして主要交差点一四箇所を除き右折禁止とし場所によつては左折禁止又は直進禁止とする、③全線につき転回禁止、右横断禁止とする、④歩行者横断については平均二、三〇〇メートルおきにつけられた信号機付の横断歩道を除いては全線につき横断禁止とする等の規制をなし、道路管理者において(ア)ガードレールを全線に設置する、(イ)中央分離帯の切れ目を防ぐ、(ウ)中央分離帯に中央防護柵を設置する等の施設整備をなすものとされた。

なお、右規制のうち歩行者横断禁止処分は環状線の交通流の円滑化のほかに当時、環状線上で多発していた歩行者の事故を防止することも規制目的としていたものであり、中央防護柵の設置は横断禁止処分を物理的に担保するための措置である。

(2) 本件中央防護柵の設置

被告市は、環状線規制に基づき被告県からの依頼により、昭和四九年環状線に中央防護柵を設置した。本件交差点付近の環状線に中央防護柵が設置された時期については、本件交差点の北側は遅くとも昭和四九年七月二九日であり、南側は同年八月九日である。

(3) 本件横断禁止処分

被告県公安委員会は、昭和四七年一一月一〇日、環状線規制に基づき、環状線全線につき横断歩道を除いて横断禁止処分をなした。

(4) 環状線規制の効果

環状線規制が大規模規制の一環としてなされ、名古屋市の中心部を通る幹線道路上の通過交通流を環状線上に誘導・分散することを目的として環状線を通過交通路とするに必要な規制・整備を内容とするものであることは右のとおりであつてその構想には一応の合理性があり、しかも環状線規制実施により環状線における交通事故発生件数が減少した状況、環状線における車両の流れが円滑化された状況は別紙9、10のとおりであり、環状線規制に交通事故減少効果、交通流の円滑化の効果があつたことは明らかである。

(九)  路上横断の不能

以上の各措置の結果、本件交差点を基点として、環状線は南に四二〇メートル、北に三二〇メートル、合計七四〇メートル、田籾線は東に三〇〇メートル、西に一五〇メートル、合計四五〇メートルの間いずれも路上横断することが不可能となつた。

(一〇)  代替案との比較

ところで、原告は本件歩道橋等の設置、本件横断歩道廃止等の代替案として右左折可の信号と歩行者専用信号との組合せ方式、スクランブル方式、セパレート方式の方がより合理的であると主張する。

右方式のうち、右左折可の信号と歩行者専用信号の組み合せ方式については、右左折車対横断歩行者の事故防止効果はあるものの、右方式によつても右左折車の自動車は直進(青)の場合にも可能な限り右左折をなし得るはずであり、この方式では横断歩行者と右左折車の交錯が生ずることを完全には防止できず、横断歩道上での歩行者の事故防止対策としては万全とは言い得ない。

次にスクランブル方式、セパレート方式については、スクランブル方式は昭和四六年四月五日東京都において、セパレート方式は昭和四七年九月一四日、名古屋市においてそれぞれ全国で初めて採用されたものであり、昭和四五年二月の時点では被告市、被告県が本件交差点において右各方式の採用を検討する余地は事実上無かつたものである。したがつて右各方式と本件歩道橋等の設置、本件横断歩道廃止の優劣を論ずるまでもなく、右各方式の不採用をもつて右措置の合理性を否定することはできないというべきである。

のみならず、スクランブル方式・セパレート方式は、交差点において横断歩行者と自動車とが交錯する余地をなくすものであつて交通安全対策として有効ではあるが、他方、スクランブル方式は信号サイクルの中に歩行者のみの通行時間が存するためその分交通容量が低下することから車両の通行が少なくて横断歩行者が多い繁華街、通学路等において採用されるべき方式であるとされ、本件交差点において採用すれば、その通過交通量からみて交通渋滞が生じるおそれがあること、セパレート方式については、片側三車線の道路で採用する場合、その条件として左折・直進・右折の各交通流が常時おおむね均等であることが必要であるとされているが、本件交差点は右条件を満しておらず、仮に右方式を採用した場合、本件交差点の交通容量の低下が考えられたこと(通常交通量の多い交差点でこれを採用するには片側四ないし五車線あることが必要であるとされている。)からすると、右各方式の採用は本件交差点の交通流の円滑化という観点からは適切であるとは認め難い。

なお、〈証拠〉によれば、田籾線において昭和六〇年四月三〇日から被告市の基幹バス「新出来町線」が運行し、中央走行によるバスレーン(黄土色カラー舗装)が実施され、本件交差点付近の田籾線はレーン(二車線分)を含め片側一方が四車線(他方は三車線)となつたこと、本件交差点においてはその東側と西側の田籾線の道路中央部に右基幹バスの停留所が設置され、それに伴いバス利用者が右停留所との間を路上横断できるようにするため、右停留所と接続して本件交差点の東側と西側に横断歩道が設けられたこと、本件交差点において田籾線からの右折車はバスレーンの左側の車線で待機し、基幹バスが直進した後にセパレート信号に従い右折することになつたこと、以上の事実が認められる。右認定事実によれば、本件交差点において採用されたセパレート信号は基幹バスのバスレーンの設置に伴い右折車の右側を直進することになる基幹バスと右折車とが本件交差点内で交錯することを防ぐためにとられた措置であると推認することができる。

したがつて本件交差点のセパレート信号のサイクルについては右の交錯防止を目的とする限り、論理的には直進・左折の矢印信号の現示と右折の矢印信号の現示の二つの区分で足りるはずであり、原告の主張するサイクルであることは必ずしも必要ないというべきであり、他に本件交差点において原告主張のサイクルのセパレート信号が採用されたことを認めるに足りる証拠はない。

以上の事情のもとでは、本件交差点においてセパレート信号が採用されたという事実をもつて直ちに本件交差点において原告主張のセパレート方式の採用が可能であつたとは言えないというべきである。

4まとめ

以上の事実によると、被告市の本件歩道橋の設置及び本件中央防護柵の設置並びに被告県公安委員会の本件横断歩道廃止及び本件横断禁止の処分は、本件交差点における交通量の増大とそれに伴う交通事故増加の状況から、歩行者と自動車とを空間的に分離することによつて交通事故を防止すると共に自動車交通の円滑化を図り、かつ、地域交通流を適切に再分配することによる交通流の安定と交通事故の減少を目的とする大規模規制の実現のため、充分な協議に基づいて採られた互に密接に関連する一連の措置であつて、いわば一体のものとして評価できる関係にあるところ、右各措置は、所期の目的である交通事故減少及び交通流の円滑化の効果があつたのであるから、その公益的必要性、合理性が認められ、これと比較し原告が迂回通行によつて蒙る多少の時間的損失、肉体的負担は未だ社会生活上受忍すべき限度を超えたものと認めることはできない。

よつて、本件歩道橋等の設置等が被告市の道路管理の瑕疵にあたるとも、被告県公安委員会の本件横断歩道廃止等に違法性があるとも認められない。

又原告主張の代替案が右本件横断歩道廃止等の各措置に比しより合理的であると認め難い以上、被告県に本件交差点に横断歩道を再設置すべき義務があるとは言えないから、右横断歩道の不設置が違法であると認めることもできない。

なお、原告は本件歩道橋等の設置等にあたり事前の影響評価、住民参加の各手続がなされなかつたことを違法性を基礎づける要素として主張するが、法律上右各手続を定めた明文の規定はなく、又前述のとおり通行権(通行の連続性)が認められない本件においては附近住民に対し、告知・聴聞の手続をなす要請もないというべきであるから、右主張は理由がない。

三  被告国の責任

原告は、被告国が設置要領(案)を被告市・被告県に、警察庁通達を被告県に各通知したことにより、不法行為を教唆したものであると主張するが、被告市・被告県に何らの責任も認められないことは叙上説示したとおりであるから、右責任を前提として被告国の責任を問う原告の主張は理由がないことに帰する。

四  結  論

よつて、原告の被告らに対する請求はいずれも失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官猪瀬俊雄 裁判官満田明彦 裁判官多和田隆史)

〔1〕 交通安全長期計画の推移

(単位:億円、倍)

うち特定事業

地方単独事業

計画額

対前回比

計画額

対前回比

計画額

対前回比

第1次3か年計画

(41~43)

公安委員会分

道路管理者分

60

722

782

(38)

(134)

(172)

第2次3か年計画

(44~46)

公安委員会分

道路管理者分

277

1,373

1,650

46

750

796

0.77

1.04

1.02

231

623

854

第1次5か年計画

(46~50)

公安委員会分

道路管理者分

1,738.2

4,596.9

6,335.1

685.5

2,292.8

2,978.3

1,052.7

2,304.1

3,356.8

第2次5か年計画

(51~55)

公安委員会分

道路管理者分

約3,800

約10,000

約13,800

2.19

2.18

2.18

1,500

5,700

7,200

2.19

2.49

2.42

約2,300

約4,300

約6,600

2.18

1.87

1.97

(注) 第1次3か年計画の地方単独事業は42~43年度の2か年分の通学路分のみである。

〔3〕 古出来町交差点付近の交通量

年別

43年

46年

49年

番号

路線名

測定場所

1

市道

名古屋環状線

都通

1丁目

28,519台

(100)

31,167台

(109.3)

27,693台

(97.1)

2

市道

名古屋環状線

阿由知通

2丁目

31,859台

(100)

33,401台

(104.8)

29,182台

(91.6)

3

県道

田籾名古屋線

萱場町

3丁目

30,186台

(100)

32,517台

(107.7)

34,871台

(115.5)

4

県道

田籾名古屋線

新出来町

3丁目

29,165台

(100)

33,610台

(115.2)

36,614台

(125.5)

1 この数値は、次の資料に基づくものである。

43年 昭和43年度全国道路交通情勢調査交通量観測成果表(建設省中部地方建設局)

46年 昭和46年度全国道路交通情勢調査(東海地域)報告書(東海地区道路交通調査連絡協議会)

49年 昭和49年度全国道路交通情勢調査報告書(建設省中部地方建設局)

2 この数値は、午前7時から午後7時までの12時間、自動車(二輪車を除く。)交通量である。

3 かつこ書きの数値は、43年を100とした指数である。

調査年月日 昭和49年9月12日(土)

AM8~9(PM5~6)

右折

左折

直進

457

(361)

69

(61)

967

(767)

1,493

(1,189)

301

(421)

217

(226)

521

(796)

1,039

(1,443)

434

(360)

312

(295)

1,846

(1,646)

2,592

(2,301)

74

(109)

170

(202)

1,955

(1,587)

2,199

(1,898)

1,266

(1,251)

768

(784)

5,289

(4,796)

7,323

(6,831)

17.3%

(18.3)

10.5%

(11.5)

72.2%

(70.2)

100.0%

(100.0)

注 かつこ書はすべてPM5~6の数値を示す。

時間

AM8:00~AM9:00

PM5:00~PM6:00

方向

直進

右折

左折

直進

右折

左折

場所

1,055

436

57

1,548

951

369

67

1,387

716

307

303

1,326

832

390

236

1,458

1,356

179

313

1,848

1,615

269

253

2,137

2,483

84

221

2,788

1,913

96

297

2,306

(%)

5,610

(74.7)

1,006

(13.4)

894

(11.9)

7,510

(100.0)

5,311

(72.9)

1,124

(15.4)

853

(11.7)

7,288

(100.0)

〔6〕古出来町交差点及び同交差点付近の年別交通事故(人身)発生状況

区分

交差点

名古屋環状線

田籾名古屋線

交差点から100メートル以内

交差点から100メートル以内

事故類型

年別

人、自転車対

自動車

43

0

0

6(2)

6(2)

0

0

2(2)

2(2)

0

1(1)

1

2(1)

44

0

1(1)

5(4)

6(5)

0

0

3(3)

3(3)

0

1(1)

1

2(1)

45

0

0

1(1)

1(1)

0

0

0

0

0

0

0

0

46

0

0

1(1)

1(1)

0

0

3(3)

3(3)

0

0

0

0

47

0

0

0

0

0

0

2(1)

2(1)

0

0

0

0

48

0

0

1

1

0

0

1

1

0

0

0

0

49

0

0

2(1)

2(1)

0

0

2

2

0

0

0

0

自動車対

自動車

43

0

0

15

15

0

0

7

7

0

0

7

7

44

0

0

19

19

1

0

9

10

0

0

2

2

45

1

0

14

15

0

0

4

4

0

0

5

5

46

0

0

9

9

0

0

2

2

0

0

7

7

47

0

0

8

8

0

0

5

5

0

1

6

7

48

0

0

9

9

0

0

3

3

0

0

3

3

49

0

0

4

4

0

0

0

0

0

0

7

7

注 かつこ書きは内数で歩行者事故を示す。

〔7〕

年度

事故件数及び

傷害の程度

発生地点

横断歩道上に

おける事故の態様

43

2(いずれも軽傷)

横断歩道上

後退車との衝突(1)

左折車との衝突(1)

44

5(重傷1、軽傷4)

横断歩道上(3)

左折車との衝突(2)

右折車との衝突(1)

45

1(軽傷)

横断歩道上

(事故発生日は

本件横断歩道廃止前の

三月六日)

左折車との衝突

46

1(軽傷)

47

0

48

0

49

1(軽傷)

〔9〕名古屋環状線交通事故発生状況

区分・事故

事故件数

事故類型別件数

死亡

重傷

軽傷

人対車両

自転車対車両

車両相互

その他

規制前

(46.11.10

47.11.9)

1,062

15

76

971

140

101

773

48

規制

1年後

(47.11.10

48.11.9)

714

10

33

671

79

97

499

39

2年後

(48.11.10

49.11.9)

584

11

35

538

64

87

406

27

3年後

(49.11.10

50.11.9)

521

8

17

496

76

71

356

18

比較

規制前と

1年後

~348

(32.8%)

~5

(33.3%)

~43

(56.6%)

~300

(30.9%)

~61

(43.6%)

~4

(4.0%)

~274

(35.4%)

~9

(18.8%)

規制前と

2年後

~478

(45.0%)

~4

(26.7%)

~41

(53.9%)

~433

(44.6%)

~76

(54.3%)

~14

(13.9%)

~367

(47.5%)

~21

(43.8%)

規制前と

3年後

~541

(50.9%)

~7

(46.7%)

~59

(77.6%)

~475

(48.9%)

~64

(45.7%)

~30

(29.7%)

~417

(53.9%)

~30

(62.5%)

〔10〕 名古屋環状線走行時間調査表

走行時間

内回り

外回り

平均

区分

規制前

(47.7.6

47.7.8)

時間 分 秒

1 51 16

時間 分 秒

1 43 26

時間 分 秒

1 47 21

規制後

1年後

(48.11.18

48.11.21)

時間 分 秒

1 37 34

時間 分 秒

1 18 19

時間 分 秒

1 27 56

2年後

(49.12.23

49.12.24)

時間 分 秒

1 34 18

時間 分 秒

1 32 34

時間 分 秒

1 33 26

3年後

(50.10.16

50.10.30)

時間 分 秒

1 21 12

時間 分 秒

1 31 50

時間 分 秒

1 26 31

比較

規制前と

1年後

-13分42秒

(12.3%)

-25分07秒

(24.3%)

-19分25秒

(18.1%)

規制前と

2年後

-16分58秒

(15.2%)

-10分52秒

(10.5%)

-13分55秒

(13.0%)

規制前と

3年後

-30分04秒

(27.0%)

-11分36秒

(11.2%)

-20分50秒

(19.4%)

〔11〕 交通公害調査表

(大気汚染)

(年平均 PPM)

汚染物質区分

窒素酸化物

オキシダント

(OX)

一酸化炭素

(CO)

年別

一酸化窒素

(NO)

二酸化窒素

(NO2)

47

0.037

0.040

0.034

2.5

48

0.031

(-16.2%)

0.031

(-22.5%)

0.028

(-17.6%)

3.0

(+20.0%)

49

0.031

(-16.2%)

0.034

(-15.0%)

0.028

(-17.6%)

2.5

(0%)

環境基準

(参考)

1時間値の1日平均値が、0.02PPM以下であること。

1時間値が、0.06PPM以下であること。

1時間値の1日平均値が、10PPM以下であり、かつ、1時間値の8時間平均値が20PPM以下であること。

1 上記測定値は、愛知県及び名古屋市の各測定局において、それぞれ年間を通じて終日自動測定装置により測定した結果の年平均値である。

2( )内は47年との比較である。

〔12〕 交通公害調査表 (光化学スモッグ)

区分

予報

注意報

被害者数

年度別

47

15回

5回

344人

48

9回

8回

239人

49

5回

2回

132人

50

3回

2回

107人

(愛知県環境部大気課調べ)

注 予報は0.10PPM以上、注意報は0.15PPM以上を計測した場合に発令する。

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